- 公開日:2026/08/20
- 最終更新日:2026/08/24
事業の成長にあわせて社員数が増えていくと、これまで快適に使えていたオフィスが急に手狭に感じられるようになります。とはいえ、移転には多額の費用と時間がかかるため、現在の空間をどう活かすかが大きなテーマになります。
そこで注目されているのが、限られた面積でも柔軟に使い回せるオフィス改装です。固定席を見直し、可変性のある配置に切り替えることで、数名の増員程度であればレイアウト変更なしに吸収できる環境が整います。本記事では、決裁者の方が判断する際に押さえておきたい配置の考え方と、実際の工夫を整理してお伝えします。
① 人員増に対応するためのオフィス改装の考え方とレイアウト設計の基本
固定席から可変性のある空間へと発想を切り替える考え方を解説します。
② 限られたスペースでも働きやすさを高める配置や家具選びの工夫
多機能家具やフリーアドレスなど、実践的な工夫を紹介します。
③ 改装前に整理しておきたい課題の洗い出しと準備の進め方
現状課題の把握から合意形成まで、準備段階の進め方を整理します。
④ オフィス改装を安心して進めるための設計パートナー選びのポイント
監理体制や実績の見極め方など、パートナー選定の判断軸を紹介します。
人員増加に強いオフィス改装の基本的な考え方
人員増加に備える改装は、『空間を固定しない』という発想への切り替えから始まります。柔軟性、将来性、ゾーニングという3つの視点が判断のよりどころです。
固定席ではなく可変性のあるレイアウトを選ぶ
これまで一般的だった一人一席のレイアウトは、増員のたびに机を買い足し、配線を引き直す手間が発生します。フリーアドレスや共用席を組み合わせれば、出社人数の変動に合わせて席を融通でき、数名の増員ならレイアウトを変えずに吸収できます。
改装の核となるのは、人数が変わっても基本構成を崩さずに使い続けられる空間にしておくことです。結果として、改装後の運用コストや管理の手間も大きく軽減されます。
3〜5年先の組織像を見越して設計する
改装の効果を長く享受するには、現在の人数だけでなく、3年から5年後の組織像をふまえた検討が欠かせません。出社率や採用計画、新規プロジェクトの想定数を整理し、必要な席数や会議室の数を逆算します。
余白のある動線や、後から机を増やせる予備エリアをあらかじめ確保しておくと、組織が成長したときも慌てずに対応できます。これは中小企業だけでなく、医療法人や設計事務所など人員変動の多い組織にも当てはまる考え方です。
業務内容に応じたゾーニングを徹底する
人が増えると、集中したい人と相談したい人が同じ空間に混在し、業務効率が落ちやすくなります。静かに作業するエリア、会話が中心になるエリア、来客や打ち合わせのエリアを明確に分けるゾーニングが鍵となります。
以下の表は、ゾーニングの基本パターンと得られる効果を整理したものです。
| エリア | 主な用途 | 得られる効果 |
|---|---|---|
| 集中ゾーン | 個人作業、資料作成 | 静かな環境で生産性が高まる |
| コラボゾーン | 打ち合わせ、相談 | 会話が活発になり連携が進む |
| リフレッシュゾーン | 休憩、軽い雑談 | 気分転換と社員交流につながる |
▶ オフィス設計の完全ガイド!建築設計がもたらす働きやすい環境づくり
限られた空間を活かす具体的な配置の工夫
続いて、実際の改装現場で効果が出やすい配置と家具の工夫を紹介します。床面積を増やせない条件下でも、使い方を変えるだけで体感の広さは大きく変わります。
多機能な家具で1台に複数の役割を持たせる
収納を兼ねたベンチ、折りたたみ式のテーブル、キャスター付きのデスクなどを取り入れると、必要なときだけ広げる運用が可能になります。普段はすっきりとした執務空間を保ちつつ、研修や全社ミーティングのときだけ広く使えるという二段構えが実現します。
什器の規格をそろえておくと、後から買い足しても統一感が崩れません。コニカミノルタの事例でも、什器を統一することで増員時の拡張がしやすくなったと報告されています。
フリーアドレスと半固定席を組み合わせる
すべてをフリーアドレスにすると、毎朝の席探しに疲れる社員も出てきます。そこで部署ごとに大まかな居場所だけ決めておき、その中では自由に座れる半固定席という方式が現実的です。
収納はパーソナルロッカーを別に用意し、机の上には私物を置かないルールを徹底すると運用がうまく回ります。座席の自由度と帰属感のバランスをどこに置くかが、フリーアドレス成功の分かれ目になります。
動線と余白を意識した家具配置
机を詰め込みすぎると、人が増えたときに通路が圧迫され、ストレスや小さな衝突の原因になります。主要動線は2人がすれ違える幅を確保し、将来的にデスクを足せる余白を残しておくと安心です。
- 主要動線は最低でも120cm以上を確保しているか
- 非常時の避難経路が家具でふさがれていないか
- 追加のデスクを置ける予備スペースがあるか
- 複合機やロッカー周辺に滞留できる余白があるか
▶ 意匠設計とは?構造設計との違いやデザイン・機能・構造をつなぐ設計プロセスを解説
限られた空間における多機能家具や収納の工夫は、単に利便性を高めるだけではありません。工夫次第で、空間そのものの美しさを際立たせ、社員の誇りを醸成するデザインへと昇華させることも可能です。実際の事例を見てみましょう。
事例紹介:装飾を削ぎ落とした単一素材が集中力と誇りを生む(Wood Wool Workful)
株式会社丸尾建築西宮支店の事例を用いて、これまでの内容を実際の空間にどう落とし込んでいるかについて詳しく見ていきましょう。
- コンセプト:「働くことへの誇りとステイタスのデザイン」。天井・壁・什器のすべてを建築素材である「木毛セメント板」で統一し、ストイックなまでに無機質で張り詰めた静謐な空間を創出。
- レイアウトと収納:限られた面積の中で、什器と一体化した大容量の壁面収納を構築。営業業務で生じる膨大な資料やサンプル類を内部に隠すことで、無機質な見えがかりを保ちながら高い実務機能を実現。
- 照明計画:天井に格子状の開口を設け、空全体が発光しているようなオリジナルの光幕(光天井)を配置。均質でノイズの少ない光環境が、働く人の集中力をサポート。
- ブランド形成(採用・定着):装飾を削ぎ落とした抑制されたデザインが、人材の流動性が高まる現代において、社員が「ここで働くこと」に対する誇りとステイタスを感じさせる求心力として機能。
| 用(機能性) | 什器と一体化した大容量収納により膨大な資料を隠蔽しつつ実務に対応。均質な光幕が視覚的・聴覚的ノイズを排除し、高い集中力を維持できる環境を整備。 |
|---|---|
| 強(構造・耐久性) | 建築下地材として強度に優れる「木毛セメント板」をあえて仕上げ材・什器として全面に用いることで、堅牢かつ統一感のある物理的構造を実現。 |
| 美(美観) | 素材の色や質感を一つに絞り込み、装飾を徹底的に削ぎ落とすことで、静寂でストイックな完成度とステイタスを感じさせる圧倒的な空間美を創出。 |
改装プロジェクトを成功させる準備の進め方
改装を成功させるには、設計に入る前の準備段階で何を整理するかが大きく結果を左右します。決裁者として押さえておきたい3つのステップを紹介します。
現状課題の洗い出しと将来予測
はじめに、現在のオフィスで何に困っているかを社員から集めます。会議室が足りない、電話の声が気になる、収納があふれているといった具体的な声が、改装の優先順位を決める材料になります。
あわせて、今後1年〜3年で見込まれる採用人数や組織再編の計画も整理しておきます。経営層しか持っていない情報と現場の声を突き合わせることで、本当に必要な改装の姿が見えてきます。
改装の目的を明確にする
改装の目的は人員増対応だけとは限りません。働き方改革、ブランディング、採用力の強化など、複数の目的が重なるのが一般的です。何を最優先にするかを言語化しておくと、設計者との打ち合わせがスムーズに進みます。
内装設計の場合、工期は3〜6ヶ月、スケルトン状態からの場合はさらに2〜3ヶ月加わるのが目安です。費用と工期、業務への影響を早い段階ですり合わせておくことが、判断の遅れを防ぐ近道になります。
社員を巻き込んで合意形成を進める
トップダウンで決めた改装は、完成後に「使いにくい」という不満が出やすいものです。要望ヒアリングや中間段階での共有を通じて、社員に当事者意識を持ってもらう工夫が欠かせません。
準備段階で押さえる主な項目を、次の表にまとめました。
| 項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 人員計画 | 採用予定数、出社率、組織再編の見込み |
| 業務分析 | 集中業務と協働業務の比率、来客頻度 |
| 予算と工期 | 投資上限額、業務に支障の少ない着工時期 |
| 関係者調整 | 社内合意、ビルオーナーとの協議 |
設計パートナーを選ぶときの判断軸
改装の質は、依頼する設計者やデザイナーの力量に大きく左右されます。決裁者として、どんな観点でパートナーを選ぶべきかを整理します。
業種や規模に対する経験を確認する
オフィス改装といっても、本社機能、研究開発拠点、医療法人の事務部門など、求められる要件は大きく異なります。自社と近い規模や業種の実績を持つ設計者であれば、初期段階から的確な提案が期待できます。
過去の事例を見せてもらう際は、完成写真だけでなく、改装前と改装後でどんな課題がどう解決したのかというストーリーまで聞くと、設計者の思考の深さがわかります。
設計監理と工事管理の役割を理解する
建築や内装の現場では、設計事務所が担う「監理」と、工事会社が担う「管理」が並行して進みます。監理は設計図どおりに工事が行われているかを確認する立場、管理は工程や品質、安全を取り仕切る立場です。
この2つを兼ねる体制なのか、分けて発注するのかで、現場でのチェック機能や責任範囲が変わります。監理と管理を切り分けて発注すると、第三者の視点で品質を担保しやすくなります。
デザインと事業性の両立を語れるか
美しいオフィスをつくるだけなら、デザイン力のある設計者は数多く存在します。しかし、人員増加への耐性や採用力の向上、業務効率の改善といった事業面の効果まで踏み込んで提案できるパートナーは限られます。
- 自社と近い規模、業種の実績があるか
- 事業課題を聞き取り、空間に落とし込む姿勢があるか
- 監理体制と現場のチェック方法が明確か
- 建築から内装、什器まで一貫して相談できるか
▶ 建築設計会社の選び方|後悔しないためのポイントと判断基準を解説
よくある質問
Q移転せずに改装だけで人員増加に対応できる目安は何名くらいですか?
A元の社員数に対して2割程度の増員までは、フリーアドレスやゾーニングの見直しで吸収できるケースが多いです。それ以上は会議室や什器の追加が必要になり、移転との比較検討が現実的になります。
Qオフィス改装の工期はどれくらい見ておくべきですか?
A内装中心の改装であれば3〜6ヶ月が目安です。スケルトンからの工事になる場合はさらに2〜3ヶ月かかります。設計期間も含めると、計画開始から完成まで半年から1年弱を想定しておくと安心です。
Q改装中の業務はどう進めればよいですか?
Aフロアを区切って段階的に工事する方法、一時的にサテライト拠点を借りる方法、在宅勤務を併用する方法があります。業務への影響を最小化するために、設計段階から工事会社と工程を相談することが重要です。
まとめ
この記事では、人員増加に備えるオフィス改装の考え方と、限られた空間を活かす配置の工夫、改装前の準備、設計パートナー選びの視点までを通してお伝えしました。固定席を前提とした空間から、可変性とゾーニングを軸とした空間へと発想を切り替えることで、移転せずとも組織の成長を受け止められる環境がつくれます。
改装は単なる費用ではなく、これからの数年間にわたって生産性や採用力に影響する投資です。社内の声と将来計画を整理したうえで、信頼できる設計者と早めに対話を始めることが、満足度の高い結果につながります。
「商業建築の設計は、ただ美しい箱を作り出すためのプロセスであってはならない。」というのが、私達KTXの考え方です。
より大きなベネフィットを生む建築を創り出し、投資に見合う利益を還元するビジネスツールを我々は設計しています。建築設計からインテリアの空間デザイン、グラフィックに至るまで、あらゆるデザインを一貫してコントロールすることであなたのビジネスに強力な付加価値を生み出します。もし、建築設計についてお悩みなのであれば、是非一度我々にご相談ください。
✓ 固定席にこだわらず、ゾーニングと柔軟なレイアウトを取り入れることが、人員増に対応しやすいオフィス改装の基本となる
✓ 多機能な家具や半固定席、ゆとりのある動線設計によって、移転せずとも開放感のある空間をつくりやすくなる
✓ 改装前に現状の課題と将来の働き方を整理し、社員を巻き込みながら合意形成を進めることが重要
✓ レイアウトだけでなく事業や組織課題まで踏まえて提案できる設計パートナーを早めに選ぶことが、改装効果を高めるポイントになる
空間の目的やブランドイメージに合わせてご希望に沿った建築設計をご提案しております。デザイン相談はこちら

【この記事を書いた人 松本哲哉】
KTXアーキラボ代表・一級建築士・大阪芸術大学非常勤講師
2024年度イタリアDAC認定デザイナーランキング世界9位(日本国内1位)
【お問い合わせ先】
KTXアーキラボ一級建築士事務所
東京都港区南麻布3-4-5 兵庫県姫路市船丘町298-2
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