- 公開日:2026/05/14
- 最終更新日:2026/05/14
【2026年5月 最新情報】この記事は2026年5月13日時点の公開情報をもとに作成しています。建材価格・供給状況は日々変動しますので、最終確認は必ずメーカー・商社にお問い合わせください。
ナフサショックとは何か──建材値上げの震源地
2026年2月28日、米国・イスラエルによるイラン攻撃を契機にホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に入りました。日本の原油輸入の約90%が通過するこの海峡の閉鎖は、建築現場に即座かつ広範囲な打撃をもたらしています。
問題の核心は「ナフサ」です。原油精製で得られるナフサは、断熱材・塗料・塩ビ管・接着剤・壁紙・防水材といった、現代建築に不可欠なほぼすべての石油化学系建材の原料です。さらに深刻なのは、石油備蓄法の対象が「燃料」に限られており、化学原料としてのナフサは国家備蓄の対象外であること。実質的な在庫余裕はわずか20日分とも指摘されており、供給が途絶えれば建材は急速に枯渇します。
ウッドショックが「木材」という単一素材の問題だったのに対し、ナフサショックは住宅1棟を構成する素材の川上を丸ごと直撃する点で、桁違いの影響範囲を持っています。
① 既に値上がりしたもの(2026年3〜5月実施済み)
3月末から5月にかけて、主要メーカーが相次いで価格改定を断行しました。値上げ幅は従来の「数%」レベルをはるかに超えています。
断熱材(+40〜50%)──最大の打撃
省エネ義務化(2025年4月〜)で需要が急増している断熱材が、最も深刻な打撃を受けています。
- カネカ「カネライトフォーム」:2026年4月出荷分より約40%値上げ
- デュポン・スタイロ「スタイロフォーム」:2026年5月出荷分より約40%値上げ
- 旭化成建材「ネオマフォーム」:5月7日出荷分より20%値上げ(4月20日〜一時受注完全停止を経て)
- JSP「ミラフォーム」:6月1日出荷分より約40%値上げ
塗料・シンナー(+10〜80%)──工事進行に即時影響
- 日本ペイント:シンナー製品75%値上げ(2026年3月25日)
- 関西ペイント:シンナー製品50%以上値上げ(2026年4月2日)
- エスケー化研:5月出荷分より10〜30%値上げ(2026年4月7日発表)
特に溶剤系塗料・シンナーの不足は深刻で、代替として水性塗料への需要が集中。その結果、水性塗料まで入手困難になるという連鎖も起きています。
ルーフィング(+40〜50%)
田島ルーフィング等各社が5月1日納品分から40〜50%値上げ。通知から実施まで約1ヶ月という異例の短期実施で、現場への周知が追いつかなかったケースも多発しています。
塩ビ配管材(+12〜30%以上)
- 積水化学工業:5月7日出荷分より塩ビ・ポリ管等12〜20%値上げ、雨とい20%以上・カラーパイプ30%以上(5月20日〜)
- クボタケミックス:5月7日出荷分より塩ビ製品30%以上、樹脂製品20%以上値上げ
住宅設備(+5〜15%)──受注停止も発生
- LIXIL:2026年4月1日受注分より全カテゴリー値上げ(サッシ・ドア5%、キッチン6%、トイレ6%、水栓金具15%)
- TOTO:2026年4月13日、ユニットバスの新規受注を一時停止(4月下旬に再開)
- LIXIL:TOTOに追随し受注停止。国内シェア約80%の二大メーカーが同時停止という前代未聞の事態となった
② 値上げが確定しているもの(2026年6〜7月以降実施予定)
日本建材・住宅設備産業協会は「6月以降は第3波の値上げが予測される」と警告しています。既に複数メーカーが具体的な価格改定日を発表しています。
| 建材カテゴリ | メーカー・製品 | 値上げ幅 | 適用時期 |
|---|---|---|---|
| 石膏ボード | 吉野石膏 | +20% | 2026年6月出荷分〜 |
| 断熱材(第2波) | JSP「ミラフォーム」等 | +40% | 2026年6月出荷分〜 |
| 塩ビ配管(追加改定) | 積水化学工業 | +6〜12% | 2026年6月1日出荷分〜 |
| 壁紙・床材・カーテン | サンゲツ | +20〜30% | 2026年7月1日受注分〜 |
| 壁装材・床材・副資材 | リリカラ | +15〜30% | 2026年6月29日出荷分〜 |
| 屋根材(アスファルトシングル) | 旭ファイバーグラス「リッジウェイ」「オークリッジ」 | +30% | 2026年7月1日出荷分〜 |
| 建具・床材・収納・階段 | ウッドワン | 改定(幅未公表) | 2026年6月22日受注分〜 |
| カラー鋼板・折板 | 稲垣商事(現行価格は6月末まで) | 7月以降対応不可の可能性 | 2026年7月〜 |
| 金属サイディング(外装材) | 最大手メーカー(追随必至) | +18%以上 | 2026年6月1日〜 |
特に注目すべきは石膏ボード(吉野石膏+20%)の影響です。石膏ボードは用途を問わずあらゆる建築の内装下地に使用される汎用材であり、住宅から商業施設・医療施設まで、建築コスト全体への波及が避けられません。
③ 現況から値上がりが予想されるもの
メーカーからの正式発表はまだないものの、サプライチェーンの構造上、値上げが避けられないと見られる建材・コストです。
鋼材・鉄骨材(エネルギーコスト上昇による二次値上げ)
鉄鋼製造工程でのエネルギーコスト上昇により、鋼材・鉄骨材の二次的値上げが予測されています。6月以降の鋼板「第2波」が業界内で予告されており、RC・S造建物のコストに直撃します。
住宅設備(第2波の受注停止・追加値上げ)
パナソニック製品の供給正常化は6月以降の見通しです。TOTOおよびLIXILの受注停止は4月下旬に再開されましたが、設備選定の偏りによる他メーカーへの集中発注が納期遅延を引き起こす二次的影響が懸念されます。
シーリング材・接着剤・合成木材
ナフサ由来の石油化学製品全般に影響が波及しており、シーリング材・接着剤・合成木材・床材(合成系)への値上げが順次通知される可能性が高い状況です。
物流費・施工費全般
工事車両の燃料費高騰が施工コスト全体を押し上げます。建材価格だけでなく、見積書の輸送費・諸経費欄の増加として現れるため、見かけ上の建材費以上にトータルの工事費が膨らむ可能性があります。
構造的な高止まり要因──終わらない値上げの背景
ホルムズ海峡が平時の通航水準に戻ったとしても、サプライチェーン全体の目詰まりが解消されるまでには数ヶ月の時間を要します。加えて、ナフサ輸入先が中東から米国産へシフトすることで、輸送コスト増に伴う「構造的高止まり」が定着するという見方が業界内で強まっています。
設計・施工上の実務対応──KTXアーキラボの判断軸
一級建築士事務所として、現在進行中のプロジェクトに対して以下の判断を推奨します。
【発注の前倒し】現行価格が適用される最終ラインを各メーカーに確認の上、可能な限り早期発注・早期確保を進める。断熱材・塩ビ管など工事初期に必要な資材は着工3ヶ月前からの確保が目安です。
【代替材の検討】断熱材については石油由来の発泡系素材(ウレタン・ポリスチレン)からグラスウール・ロックウールへの切り替えで、供給不安と価格高騰の両方を緩和できます。性能・法適合・納まりの検討が必要ですが、現実的な選択肢です。
【見積有効期限の設定】2025年建設業法改正により、著しい情勢変化による契約変更がより明確に認められるようになりました。見積有効期限を2週間程度に設定すること、および価格変動条項(スライド条項)の明示が、設計事務所・施工会社双方のリスク管理として有効です。
【施主への早期説明】工事費の総額は「今がほぼ最安値」という状況です。意思決定の遅延が直接的なコスト増につながることを、数字とともに施主に説明する必要があります。
ナフサショックは建材コストの問題にとどまらず、工期・品質・施主との信頼関係に関わる構造的問題です。設計者として状況を正確に把握し、施主と共に最善の意思決定を行うことが、いま最も求められる役割だと考えています。
【この記事を書いた人 松本哲哉】
KTXアーキラボ代表・一級建築士・大阪芸術大学非常勤講師
2026年度イタリアDAC認定デザイナーランキング世界9位(日本国内1位)
★ ウィキペディア 松本哲哉(建築家)
【お問い合わせ先】
KTXアーキラボ一級建築士事務所
東京都港区南麻布3-4-5 兵庫県姫路市船丘町298-2
kentixx@ktx.space 03-4400-4529 https://ktx.space/
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