- 公開日:2016/10/04
- 最終更新日:2020/12/01
病院設計 ・ クリニック デザイン の戦略的アプローチ
私たちは 約40年間にわたり、 商業施設 専門の 設計事務所 として 建築設計 ・ 空間デザイン に従事して参りました。近年は商環境設計における「 経営戦略とリンクした 設計 」 という アプローチのもと、 病院 ・ クリニック 等 医療施設 の 設計 実績も 増えつつあります。
■ 「選ばれるお店」「選ばれる医院」をつくることが、私たち商環境設計者の使命です。
商業施設においても、医療施設においても、差別化を図る上で最も基本的かつ重要なポイントは、客(患者)は何をもってお店(病院)を選ぶのか、その 主要素を把握することにあります。その業種業態の本質の部分をあぶり出すことで、その答えは見えてきます。
自分自身に置き換えて考えてみて下さい。あなたはどんな病院で診てもらいたいですか?オシャレな病院?落ち着く病院?先生が優しい病院?それらはどれも病院選びにおいて重要なポイントにはなりえません。あなたが診てもらいたいと思う病院はきっと「医療レベルの高い病院」であり、その医療技術への信頼感こそが患者に「この病院に行きたい」と思わせる要素となります。
■ 病院 = 権威(権威:専門の知識・技術について、その方面で最高の人だと一般に認められている人、大家)
病院設計 ・ クリニックデザイン において、 医療施設 としての 様々な 機能を 効率的に 発揮させ、安全面 ・ 防災面 において、 あらゆる想定を 行うという 基本的な 事項は 当然 クリアしながら、我々 設計者が 更に意識すべき ポイント は、 医療施設 としての 「 権威 」 を背景に 感じさせるもの でなくてはならない、ということです。
それは 決して 豪華に しなくてはならない という意味 では ありません。
人は 「見た目」 から 潜在意識レベルで あらゆる 要素を 推測します。
単純な 例を 挙げると、 病院 ・ クリニック が 妙に古くさかったり、安っぽく見える 場合、患者は 潜在意識下で その 医療 レベルへの 期待値を 下げて しまいます。 病院 の 「見た目」 のイメージから、その 病院 の システム 、 医療 技術 、財力などをも 想像するからです。
患者は 医療 の専門家ではないので、その 病院 の事実上の 医療 水準を 正確に推し測る ことはできません。 実際は 視覚情報が、その 病院 の 「イメージ」 を創る 要素の 大部分を 占めます。
また、近年重要な 要素とされているのは、 口コミです。 第三者の 感想として 信憑性を 期待されるものですが、その 口コミを 発信する 患者もまた、 医療 に関しては 素人、その口コミの 内容は 正確に 医療 技術 を分析したものには なり得ず、 「イメージ」 というものが 大きく 影響していることは 言うまでも ありません。
我々は 病院設計 ・ クリニックデザイン に際して 「その 医療施設 がその地域のおいて どのようなポジションにあり、患者にどのようなイメージを 与えるべきなのか?」 「経営戦略的な観点から、どのような話題を生むしかけを作るべきか?」 を意識して 設計 ・ デザイン を進めます。
人が 病院 に求めているものの 本質は 何か? それは 水準の 高い 医療機関 に自らの 健康を 預けているという、医療技術への 信頼から生まれる 安心感です。
患者が 求めているものは、まさに「 高度な 医療 」
私たちは そのイメージを 具現化する デザイン を追求します。
■ 癒し = 自然 ?
病院 ・ クリニック の 設計 段階でよく話題に上る キーワードが 「癒し」 です。
「癒し」 といえば 「自然」 、院内に 植栽を置きしましょう、木を使いましょう、 というような 自然を 生かした 癒し、それも 確かに 大切な 要素だと 思いますが、 人が 医療機関に 求めている 「癒し」 とは 本来 違う ベクトルの 先に あると 私たちは考えています。
こちらは医療機関 ではないですが、 関連施設として 処方箋薬局 の デザイン を例に挙げて 説 明致します。
処方箋薬局 の デザインです。
非常に 近未来的な イメージの デザイン に仕上げていますが、ここで 最も重要視したのは、 処方箋薬局 に来る 患者さんにとっての「癒し」 そのものです。
病気を患い、 薬を買いに来る 患者さんにとっての 癒しは 文字通り 「体を癒す」 ということです。 つまりこの 処方箋薬局 で処方された薬品に 対する 信頼感から 生まれる 「安心感」 が、 治癒への 期待値となり 、 患者の 潜在意識における 「癒し」 へとつながります。
安直ですが 分かりやすい例を挙げると、簡素な薬局で処方された医薬品と、 最先端の研究所のような施設から出された医薬品 、どちらが 効きそうな気がするか、 ということです。 「病は気から」 と言いますが、 まさに 「そんな気がする」 という イメージが 大きく患者の 潜在意識 に影響します。 病院設計 ・ クリニックデザイン においては 「最先端の高度な医療技術」 それらを 「見た目」 からイメージさせる仕掛けが必要です。
植栽を置く、庭をつくる、という類の 「癒し」 は、そのイメージを 作り上げた上に、 別の側面から 「癒し」 を補足するものであるべきだと思います。
■ 戦略をデザインする
「戦略をデザインする」これは私たちが 商環境デザイン において常に意識しているキーワードです。
例えば 店舗 を デザイン する場合、ただ美しい空間を作るだけでは、継続して繁盛する 店舗 にはなりえません。 空間デザイン はビジネス戦略とリンクすることで初めて力を発揮します。
これを 医療施設 に置き換えた実例をご紹介致します。
■ 手術室がまる見えの 眼科クリニック
クライアントは駅前デパートの3階に独立開業される眼科クリニック様でした。
数ある 眼科クリニック の中から選ばれる クリニック になるため、何をもって差別化するのか、打合せを重ねるなかで見えてきたクライアントの最大の武器は「手術」でした。
クライアントは大学病院で手術の実績を重ね、ご自身も手術の腕には自信をお持ちでした。
「手術が得意」というのは患者にとって「医療レベルが高そうだ」というイメージを与える非常に良い材料になります。
ではどのようにしてそれを患者に伝えるのか?
例えば・・・
外壁看板に「当医院は手術が得意です」と書く?
そして受付にも
更に先生の名札にも・・・
「わたしは手術が得意です」と書く?
確かにこれを見た患者さんには「この クリニック は手術が得意なんだ」と伝わります。
しかしこのような文字情報で一方的に伝えるという手法には、なにか胡散臭さを感じてしまいます。
それは「情報が」相手からの一方的な情報であり、情報の受け手からすれば、その情報はクリニックの「宣伝広告」でしかないからです。情報化社会に生きる私たちは「広告」に対して無意識に警戒心を持ち、懐疑的になります。
ではどのように伝えれば、「手術が得意」という事実が効果的に受け入れられるのでしょうか。
私たちの出した解はいたってシンプルです。
医療に従事する人でなければ、普段手術室を直接目にする機会は皆無です。眼科に手術室があることすら知らない人も多いでしょう。
見たことのない手術室を、目の前でまじまじと見る機会は人の好奇心を大いに刺激します。
目の前にはテレビで見たことがあるような手術室のイメージとは全く違う空間に、手術用の医療機器が並んでいます。
これによってどのような効果が得られるのか?
その強烈な存在感から「このデパートに眼科がある」ことを印象付けるという最も基本的な集客要件をまず満たします。
そして手術室を見せているという事実から「ここの先生は手術に自信を持っている」という事実が伝わり、それは即ち「医療レベルの高さ」を患者にイメージさせます。
前者の文字情報による伝達と、後者の視覚情報による伝達、情報は同じ「手術が得意」という事実です。しかし前者は外側から一方的伝えられた情報であるのに対し、後者は患者が内側から「自ら導き出した」ものです。後者における「この先生は手術が得意なんだろう」「ここは医療レベルが高そうだ」という自ら想像して認識した情報が患者にとって信憑性のある情報になることは容易に想像できるでしょう。
また、事前に手術室を見せることで、手術に対する恐怖を和らげる効果も期待できます。
この眼科クリニックが開院して5ヵ月後、院長先生から電話があり、「診療時間割の看板を書き換えて欲しい」というご要望がありました。聞けば手術の予約がいっぱいで手術日を増やすためだということでした。
言葉ではなく、 設計 ・ デザイン によって、何を潜在意識に訴えるのか、見る人に何を思わせるのか、それを デザイン することが 「戦略をデザインする」 ということだと私たちは考えています。
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