建築設計・空間デザイン業界におけるAI活用法〜居抜き物件調査編〜

 
     
  • 公開日:2026/02/03
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  • 最終更新日:2026/02/03

はじめに:リノベーションは「新築」よりも怖い

「良い物件が見つかったので、内装をリノベーションして開業したい」 そのようなご相談をいただく際、私たちはまず「建物の健康診断」から始めます。

特に、ドクターがクリニックを開業する場合、一般的なオフィスとは次元の違う「負荷」が建物にかかります。 現在、埼玉県で進行中の「整形外科クリニック改修プロジェクト」。 ここは元々診療所として使われていた建物(居抜き)ですが、新たにMRI(1.5テスラ)やCTといった重量級の高度医療機器を導入する計画です。

既存の建物が、その重さに耐えられるのか? 緊急時のガス排気ルートは確保できるか? 壁を壊しても崩れないか?

今回は、新旧入り混じる膨大な資料をAI(NotebookLM)で解析し、着工前の「見えないリスク」を可視化。さらに設計後の「安全性検証」まで行った事例をご紹介します。

1. 「20年前の図面」と「最新機器データ」の戦い

改修プロジェクトで最初に直面するのが、「資料の形式がバラバラ」という問題です。 今回のプロジェクトでも、私たちの手元には以下の資料が混在していました。

  • 20年前の竣工図・構造図(紙をスキャンした古いPDF)

  • 最新の改修要望議事録(医療コンサル会社様・施主様との打ち合わせ記録)

  • 医療機器スペック表(Canon製 MRI Vantage Elan / CT Aquilion Lightning等)

これらを人間が目視で見比べるのは、膨大な時間と「見落とし」のリスクを伴います。 そこで私たちは、これら数十点の資料を全てNotebookLMに読み込ませ、統合データベース化しました。

2. AIが指摘した「3つの致命的リスク」

実際にAIを使って抽出したリスクと、その対策プロセスの一部を公開します。

① MRIの「重さ」と「床」の強度は釣り合うか?

整形外科に欠かせないMRIですが、本体だけで数トンあります。

【プロンプト(指示)】 「アップロードした『MRI参考図.pdf』と『構造図(基礎伏図)』を照合して。MRI(Vantage Elan)の重量は約5.7トンあるが、設置予定エリア(1階放射線科)の土間コンクリート厚と配筋は、この荷重に耐えうる仕様になっているか確認して。」

【NotebookLMの回答(要約)】 警告があります。 既存の『基礎・1階床梁伏せ図』を確認すると、当該エリアの土間スラブ厚は一般的な仕様(150mm程度)の可能性があります。 MRIメーカーの推奨する「磁石架台下の補強」や「ピット深さ」が確保できない恐れがあるため、構造設計者による再計算と、場合によっては床の増し打ち(補強工事)を予算に組み込む必要があります。

② 最難関「クエンチ管」のルートなき迷宮

MRI導入で最もトラブルになりやすいのが、緊急時にヘリウムガスを屋外へ放出する「クエンチ管(排気管)」のルート確保です。新築なら最初から計画できますが、既存建物では「梁」や「柱」が邪魔をして通せないことが多々あります。

【プロンプト(指示)】 「『MRI参考図』にあるクエンチ管(排気口)の仕様と、『矩計図(断面詳細)』『2階床伏図』を照らし合わせ、1階MRI室から最短距離で屋外へ配管を出すルートを探索して。既存の大梁(G1)やサッシと干渉しない高さはあるか?」

【AIの回答(要約)】 ルート検討が必要です。 MRI室の天井懐(ふところ)寸法と、既存の外部サッシ上端の高さを比較すると、配管を通すスペースが極めてタイトです。 また、最短ルート上の壁面には構造上の柱型があるため、コア抜き(穴あけ)ができません。迂回ルートとして、隣接する更衣室の天井裏を経由する案を検討してください。その際、配管の曲がり数による圧力損失計算が別途必要になります。

③ その壁、本当に壊していいですか?

リノベーションの醍醐味は、間取りを変えて動線を良くすることです。しかし、RC造には「壊してはいけない壁」が存在します。

【プロンプト(指示)】 「議事録にある『リハビリ室拡張のための壁撤去』について。構造図と比較し、撤去予定の壁が『耐力壁』である可能性を検証して。」

【AIの回答(要約)】 注意が必要です。図面上の壁厚と配筋リストを確認すると、撤去希望箇所の一部に構造耐力壁が含まれている可能性があります。

3. 設計後の「答え合わせ」にもAIを使う

AIの活用は「調査」だけではありません。私たちが作成した「新しい設計図」が、本当に問題ないかをチェックする**「検証フェーズ」**でも威力を発揮します。

設計完了後、私たちは新しい平面図や設備図を再びNotebookLMに読み込ませます。

【プロンプト(検証指示)】 「新しく作成した『改修計画図』と、最初に読み込ませた『既存構造図』を比較して。 新設する空調ダクトやクエンチ管のルート上に、既存の梁(はり)やスプリンクラー配管との干渉リスクが残っていないか、最終チェックをして。」

人間はどうしても「こう設計したい」というバイアスがかかりますが、AIは忖度なく「図面の矛盾」を指摘してくれます。 この「AIによるダブルチェック」を経ることで、着工後の「納まらない!」「工事ストップ!」という最悪の事態を限りなくゼロに近づけています。

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2026.2.3


【この記事を書いた人 松本哲哉】

KTXアーキラボ代表・一級建築士・大阪芸術大学非常勤講師

2024年度イタリアDAC認定デザイナーランキング世界8位(日本国内1位)

ウィキペディア 松本哲哉(建築家)


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