ブランド価値を体験に変えるショールーム設計とは?“魅せる空間”を生むデザインの考え方

 
     
  • 公開日:2026/01/18
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  • 最終更新日:2026/01/18

企業のブランド価値を目に見える形で提示する場、それがショールームです。しかし単に製品を並べた展示空間では、訪問者の記憶に残る体験を生み出すことはできません。真に優れたショールーム設計は、ブランドの哲学を空間言語に翻訳し、訪問者の感情を動かす「体験」を創出します。

この記事では、ブランド価値を空間体験に変換するショールーム設計の考え方と、投資に見合う成果を生む具体的な設計手法について解説します。

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ショールーム設計に求められる本質的な価値

ショールーム設計の目的は、単なる商品展示空間の提供ではありません。企業が築き上げてきたブランドの世界観を三次元空間に具現化し、訪問者に深い印象を残す体験を創出することにあります。特に経営層や決裁権者にとって、ショールームは自社のビジョンを取引先や顧客に伝える重要なビジネスツールです。

商品展示を超えた「体験」の場としての機能

従来型のショールームは、製品仕様やカタログ情報を視覚化した展示場に過ぎませんでした。しかし現代において求められるのは、訪問者が能動的に関与できる体験型の空間です。製品に触れ、その価値を体感し、自分のビジネスや生活にどう活用できるかをイメージできる環境を設計することが不可欠です。

例えば、住宅設備メーカーのショールームであれば、単にキッチンやバスルームを展示するだけでなく、実際の生活動線を再現し、照明や音響まで含めた総合的な居住体験を提供します。これにより、訪問者は製品スペックではなく、その製品がもたらす生活の質の向上を具体的にイメージできるのです。体験型の空間設計では、以下のような要素を統合的に組み込むことが重要です。

体験型ショールームに必要な設計要素
  • 製品を実際に操作・体験できるインタラクティブゾーンの設置
  • 利用シーンを再現したリアルな空間構成
  • デジタルツールを活用したカスタマイズシミュレーション機能
  • 専門スタッフとの対話を促すコンサルティングスペース
  • 訪問後も記憶に残る独自の空間演出

特にBtoB企業のショールームでは、製品単体の魅力だけでなく、それを導入した際の業務効率化や収益改善といったビジネス的な効果を可視化する工夫が求められます。空間設計の段階から、どのようなストーリーで訪問者を導き、どのポイントで意思決定を促すのかという戦略的思考が必要です。

ブランドの世界観を空間に翻訳する技術

企業のブランドアイデンティティは、ロゴやカラーリングといった視覚要素だけで構成されるものではありません。その企業が大切にする価値観、顧客に提供したい体験、社会に対するメッセージといった抽象的な概念を、具体的な空間要素に落とし込む技術がショールーム設計には求められます。

この「翻訳」のプロセスでは、建築デザイン、インテリアデザイン、照明計画、グラフィックデザインなど、複数の専門領域を統合的にコントロールする必要があります。例えば、革新性を重視するテクノロジー企業であれば、先進的な素材と動的な照明演出を組み合わせ、未来志向の空間表現を追求します。

また、グローバル展開する企業のショールームでは、各地域の文化的背景を考慮しながらも、ブランドの一貫性を保つという高度なバランス感覚が必要です。東京のショールームとニューヨークのショールームで、デザイン要素は異なっても、訪れた人が同じブランド体験を感じられる設計思想が重要となります。

ブランド世界観の空間翻訳における主要要素
デザイン要素 表現できる価値 具体的な設計手法
素材選定 品質へのこだわり、環境配慮 天然素材の使用、サステナブル素材の積極採用
空間構成 企業の開放性、階層性 オープンプランと区画の配置バランス
照明計画 先進性、温かみ、精密性 動的照明、間接照明、タスク照明の組み合わせ
色彩計画 ブランドイメージの強化 コーポレートカラーの空間への統合
デジタル要素 革新性、インタラクティブ性 デジタルサイネージ、AR/VR技術の導入

さらに重要なのは、これらの要素が単独で存在するのではなく、相互に調和し、統一されたメッセージを発信することです。建築の外観から入口のアプローチ、受付エリア、各展示ゾーン、そして退出までの全ての接点で、一貫したブランド体験を提供する総合的な設計が求められます。この一貫性こそが、訪問者の記憶に深く刻まれる印象を生み出す鍵となるのです。

兵庫県姫路市の店舗建築設計事例 ワダスポーツの外装デザイン

事例紹介:ORIGAMI ark(皮革ショールーム)

ショールーム設計において「ブランド価値を体験へと変換する」とは、具体的にどのような空間を指すのでしょうか。ここでは、弊社が手がけたショールーム建築の事例を通して、その考え方を具体的にご紹介します。

ショールーム建築設計事例 三昌レザーパビリオン

兵庫県姫路市に建つORIGAMI arkは、播州地域の伝統産業である皮革製造業のために計画されたショールームです。膨大な種類の皮革素材を扱うクライアントの「商品の多様性」という強みを、来場者が一瞬で体感できる空間として表現することが求められました。

ショールーム建築設計事例 三昌の内装デザイン

■ プロジェクトの要点

  • 設計の起点:建物外観よりも先に、内部展示体験の構成を優先して計画
  • 展示手法:約300㎡の空間に3000点以上の皮革を一室で体験できる巨大立体什器を設置
  • 空間体験:ジャングルジム状の什器内を回遊しながら、多様な素材と出会う体験を創出
  • 建築表現:日本の伝統である「折り紙」から着想した、宇宙船のような外観デザイン
  • メッセージ性:皮革という素材が未来へ受け継がれていくという思想を建築全体で表現
「用・強・美」で見る価値
用(機能性) 大量の製品を効率よく展示しながら、来場者が直感的に全体像を把握できる構成
強(構造・合理性) 展示什器と建築を一体で計画し、空間効率と体験価値を両立
美(美観) 折り紙を思わせる外観と内部の立体展示が融合し、強く記憶に残る象徴的な空間を形成

ORIGAMI arkは、ショールームを単なる展示空間ではなく、企業の思想や価値観を体験として伝える「メディア」として成立させた事例です。ブランドの強みを空間構成そのものに落とし込むことで、訪問者の記憶に深く残るショールーム設計が可能になることを示しています。

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訪問者の行動心理を読み解く空間設計

優れたショールーム設計は、訪問者の行動心理を深く理解した上で空間を構築します。人がどのように空間を認識し、どのような動線で移動し、どこで立ち止まり、何に興味を示すのか。これらの行動パターンを科学的に分析し、設計に反映させることで、自然で快適な体験を生み出すことができます。

動線設計が生み出す自然な導線と滞在時間

ショールームの動線設計は、訪問者の体験品質と滞在時間に直接影響を与える重要な要素です。強制的な一方通行ではなく、訪問者が自発的に興味を持って空間を探索したくなるような「引力」を持った動線計画が求められます。この際、主動線と副動線を明確に区別し、訪問者の関心度合いに応じて異なる体験ルートを提供することが効果的です。

入口から最初に目に入る展示は、ブランドの最も魅力的な要素を配置し、訪問者の関心を即座に引きつけます。その後、段階的に製品やサービスの詳細情報へと導く構成により、情報の理解度を自然に深めていくことができます。また、動線上には適度な「溜まり」の空間を設け、訪問者が立ち止まって製品を詳しく観察したり、同行者と対話したりできる余白を確保することも重要です。

さらに、デジタル技術を活用した動線分析も重要です。センサーやカメラによる訪問者の行動データ収集により、どのエリアが注目されているか、どの展示が見落とされがちか、滞在時間が長いゾーンはどこかといった情報を定量的に把握できます。これらのデータを基に、開設後も継続的に展示配置や動線を最適化していくことで、ショールームの効果を持続的に向上させることが可能です。

五感を刺激する空間演出の具体的手法

人間の記憶は視覚情報だけでなく、聴覚、触覚、嗅覚といった複合的な感覚体験によって形成されます。ショールーム設計においても、視覚に偏重することなく、五感全体に訴えかける空間演出を組み込むことで、訪問者に深い印象を残すことができます。

視覚的な演出では、照明計画が特に重要です。自然光と人工照明のバランス、展示物を際立たせるスポットライト、空間全体の雰囲気を作る間接照明など、目的に応じた多層的な照明設計により、時間帯や季節によって変化する表情豊かな空間を実現します。また、色温度や照度を展示エリアごとに変化させることで、訪問者の感情や集中度をコントロールすることも可能です。

聴覚への配慮では、環境音のコントロールが重要です。適度なBGMは訪問者をリラックスさせ、滞在時間を延ばす効果がありますが、製品説明に集中してほしいエリアでは音響を抑え、会話に適した静かな環境を整えます。また、製品自体が発する音(例えば高性能エンジンの静粛性や、高品質オーディオの音質など)を体験させる専用の音響設計された空間を設けることも効果的です。

五感を刺激する空間演出の具体例
感覚 演出手法 期待される効果
視覚 動的照明、映像演出、色彩計画 注意の誘導、空間の印象形成
聴覚 環境音楽、製品音の体験、音響設計 感情のコントロール、ブランドイメージの強化
触覚 素材の質感体験、温度変化、体感型展示 製品理解の深化、記憶の定着
嗅覚 空間専用の香り、素材の自然な香り 情緒的な記憶の形成、ブランド想起
総合 季節や時間帯による演出変化 再訪意欲の向上、特別感の演出

触覚体験では、実際に製品に触れられる展示を積極的に取り入れます。素材の質感、重量感、操作感といった触覚情報は、カタログやウェブサイトでは決して伝えられない情報であり、ショールームならではの価値を提供します。特に高級素材や先進的な技術を採用した製品では、この直接的な体験が購買決定に大きな影響を与えます。

嗅覚への働きかけは、意識下で記憶と強く結びつく特性があります。空間全体に漂う微かな香りは、訪問者がその後も無意識にブランドを思い出すトリガーとなります。ただし、過度な香りは不快感を与える可能性があるため、専門家による慎重な設計が必要です。

投資対効果を最大化するショールーム戦略

ショールームは多額の投資を必要とする施設です。経営者や決裁権者にとって重要なのは、その投資に見合う明確なビジネス成果が得られるかどうかです。美的な完成度だけでなく、売上向上、ブランド価値の向上、顧客との関係強化といった定量的・定性的な成果を生み出す戦略的設計が求められます。

設計段階から組み込むビジネス成果指標

ショールーム設計の初期段階から、明確なビジネス目標とその測定指標(KPI)を設定することが重要です。単に「素晴らしい空間を作る」という曖昧な目標ではなく、「来場者数を前年比30%増加」「成約率を15%向上」「平均滞在時間を45分に延長」といった具体的な数値目標を設定し、それを実現するための設計要素を組み込んでいきます。

例えば、成約率向上を目指すのであれば、商談スペースを動線の適切な位置に配置し、製品体験後の高揚した感情を保ったまま商談に移行できる設計が効果的です。また、来場者数増加が目標であれば、外観デザインや入口周辺の演出により、通りかかった人が思わず立ち寄りたくなる「引力」を持った空間を創出します。

ショールームのビジネス成果指標と対応する設計要素
  • 来場者数増加目標:外観の視認性向上、SNS映えする撮影スポットの設置
  • 滞在時間延長目標:快適な休憩スペース、段階的な情報開示による回遊性
  • 成約率向上目標:商談スペースの戦略的配置、意思決定を促す演出
  • ブランド認知向上目標:独自性の高いデザイン、メディア掲載を意識した空間
  • 顧客満足度向上目標:パーソナライズされた接客動線、体験価値の最大化
  • リピート率向上目標:定期的な展示更新が可能な可変性、季節演出の導入

また、デジタル技術の活用により、これらの指標を継続的に測定し、改善につなげる仕組みも重要です。来場者の動線分析、滞在時間の測定、アンケートシステムの導入、顧客情報を一元管理するシステムとの連携などにより、ショールームの効果を「見える化」し、経営判断に活用できるデータを蓄積します。このデータ駆動型のアプローチにより、感覚的な評価ではなく、客観的な成果に基づいたショールーム運営が可能となります。

さらに、投資回収期間の明確化も重要です。初期投資額、年間運営コスト、予想される成果(売上増加額、ブランド価値向上の金銭換算など)を明確にし、3〜5年での投資回収計画を立てることで、経営層の意思決定をサポートします。ショールームは単なるコストセンターではなく、戦略的なプロフィットセンターとして位置づけるべきです。

運用フェーズを見据えた可変性と拡張性

ショールームは完成時点で完結するものではなく、企業の成長や市場環境の変化に応じて進化し続ける必要があります。そのため、設計段階から将来的な変更や拡張を見越した柔軟性を組み込むことが重要です。固定的な展示レイアウトではなく、展示内容の更新、新製品の追加、イベント開催など、多様な用途に対応できる可変性を持った空間設計が求められます。

具体的には、展示壁や什器を可動式にすることで、レイアウト変更が容易になります。また、電源や通信設備を空間全体に分散配置することで、どの位置でもデジタルデバイスを活用した展示が可能になります。照明設備も調光・調色可能なシステムを導入することで、展示内容や演出に応じた最適な環境を柔軟に作り出せます。

長期運用を可能にする設計要素
設計要素 可変性の内容 ビジネスメリット
可動間仕切り 空間の分割・統合が自由 イベントや用途に応じた空間利用
フリーアクセスフロア 配線の自由な配置変更 展示レイアウト変更時のコスト削減
モジュール型什器 組み合わせによる多様な展示形態 新製品対応の迅速化
調光・調色照明 演出の多様化 展示内容に最適な環境の実現
拡張可能な設備容量 将来的な設備増強に対応 全面改修なしでの機能追加

また、運用コストの最適化も設計段階から考慮すべき重要な要素です。省エネルギー設備の導入、自然光の積極的な活用、メンテナンスがいらない仕上げ材の選定などにより、長期的な運用コストを抑制しながら高品質な環境を維持できます。特にLED照明やスマートビルディングシステムの導入により、エネルギーコストを大幅に削減しつつ、快適性を向上させることが可能です。

さらに、スタッフの運用効率を高める動線設計も重要です。バックヤードから各展示エリアへの効率的なアクセス、在庫管理スペースの適切な配置、スタッフ間のコミュニケーションを促す休憩エリアなど、日々の運用を支える機能的な設計要素も忘れてはなりません。美しい展示空間だけでなく、それを支える裏側の動線や設備が充実していることが、長期的に質の高いショールーム運営を可能にします。

グローバル展開を視野に入れる企業では、各地域のショールームで一定の共通要素を持ちながらも、現地の文化や市場特性に応じたカスタマイズが可能な設計の枠組みを構築することも有効です。これにより、ブランドの一貫性を保ちながら、効率的に複数拠点を展開できます。

まとめ

この記事では、ショールーム設計において、ブランド価値を訪問者の記憶に残る体験へと変換する具体的な手法について解説しました。単なる展示空間ではなく、企業の世界観を体現し、訪問者の行動心理を理解した動線設計、五感に訴える空間演出、そして明確なビジネス成果を生み出す戦略的思考が、真に価値あるショールームを実現する鍵となります。

ショールームへの投資は、適切な設計と運用により、確実にビジネス成果へと結びつきます。あなたの企業が持つ独自の価値を、最も効果的に伝える空間の実現に向けて、戦略的な設計プロセスを進めていただければと思います。

「商業建築の設計は、ただ美しい箱を作りだすためのプロセスであってはならない。」というのが、私達KTXの考え方です。

より大きなベネフィットを生む建築を創り出し、投資に見合う利益を還元するビジネスツールを我々は設計しています。建築設計からインテリアの空間デザイン、グラフィックに至るまで、あらゆるデザインを一貫してコントロールすることであなたのビジネスに強力な付加価値を生み出します。もし、建築設計についてお悩みなのであれば、是非一度我々にご相談ください。

KTXアーキラボでは、ご希望に沿った「魅せる空間」をご提案しております。お気軽にお問い合わせください。

弊社の設計事例についてはコチラの作品集をご覧ください

2026.1.18


【この記事を書いた人 松本哲哉】

KTXアーキラボ代表・一級建築士・大阪芸術大学非常勤講師

2024年度イタリアDAC認定デザイナーランキング世界8位(日本国内1位)

ウィキペディア 松本哲哉(建築家)


【お問い合わせ先】

KTXアーキラボ一級建築士事務所

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