- 公開日:2025/12/26
- 最終更新日:2025/12/26
建築プロジェクトを成功に導くには、設計の流れを正確に理解し、各段階で必要な意思決定を適切なタイミングで行うことが不可欠です。企画から竣工まで数か月から数年におよぶ建築設計のプロセスでは、施主・設計者・施工者がそれぞれの役割を果たしながら、理想の建物を段階的に形にしていきます。
この記事では、建築設計の流れの全体像から各段階の具体的な内容まで、経営者や施設管理者が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。
建築設計の流れ全体を把握する
建築設計の流れは、相談・ヒアリングから始まり、企画設計、基本設計、実施設計、確認申請、施工監理、引き渡し、メンテナンスという一連のステップで構成されています。各段階は相互に関連しており、前段階での決定事項が後続のプロセスに大きな影響を与えるため、全体の流れを俯瞰的に理解することが建築プロジェクト管理において極めて重要です。
建築設計の流れと期間の目安
建築設計は、大きく「設計段階」と「施工段階」に分かれます。まず設計段階では、ヒアリングや敷地調査を行い、要望や条件を整理して計画の方向性を決めます。その後、間取りや建物の形、構造などを考え、基本設計や詳細な図面の作成に進みます。設計の各段階では、役所や消防との協議も行い、確認申請で建築の許可を取得します。
施工段階では、施工業者の選定・契約後に工事を開始し、設計通りに建てられているかをチェックします。工事完了後に竣工検査を行い、建物を引き渡します。その後は長く住むためのメンテナンスが続きます。
工期や費用は建物の規模や構造、地域によって大きく変わります。小さな木造住宅なら約1年、大きな鉄骨やコンクリートの建物は数年かかることもあります。費用も、建物の構造や内装、法的条件などによって差があり、坪単価で約110万〜315万ほど幅があります。
- ヒアリング(希望や生活スタイルの確認)
- 敷地調査・法規制確認(役所や消防など)
- 間取りや構造の計画、建物の配置決定
- 役所・消防との協議、外観や立面の検討
- 基本計画の承認
- 基本設計(図面作成)、役所・消防との協議
- 詳細設計(工事用の図面作成)、役所・消防との協議
- 確認申請や必要な届出
- 施工・工事監理、竣工検査、引き渡し
関係者の役割と責任
建築プロジェクトには多様な専門家が関わります。建築主は事業の目的と予算計画を明確にし、最終的な意思決定を行う責任を持ちます。設計者は建築主の要望を具体的な設計図に落とし込み、法規制に適合させながら、機能性と美観を両立させる役割を担います。構造設計者は建物の安全性を確保し、設備設計者は空調・電気・給排水などの機能を統合します。
施工段階では、施工業者が設計図に基づいて実際の建設を行い、工事監理者は設計意図が正確に実現されているかを第三者的立場で確認します。特に商業建築では、インテリアデザイナーやグラフィックデザイナーも加わり、ブランド価値を高める空間演出を担当します。これらの関係者が適切に連携することで、建築プロジェクトは円滑に進行します。
近年ではVE設計(バリューエンジニアリング)の専門家が参加し、コストと価値のバランスを最適化する役割も重要になっています。建築プロジェクトを成功させるには各専門家の知見を統合し、プロジェクト全体をマネジメントすることが肝心です。
スケジュールと費用の目安
建築設計の流れにおけるスケジュールは、建物の規模や用途によって大きく変動します。中規模の商業施設であれば、相談・企画設計から施工・監理まで約15〜18か月が標準的です。大規模な病院や複合施設では、関係者との調整や許認可取得に時間を要するため、24〜36か月以上を見込む必要があります。スケジュールの遅延は追加コストを発生させるため、初期段階での現実的な計画立案が重要です。
費用面では、設計料は一般的に工事費の10〜15%程度が目安とされますが、プロジェクトの複雑さや要求される品質水準によって変動します。企画設計段階での予算計画では、建設費だけでなく、許認可費用、測量費、地質調査費、各種コンサルタント費用なども考慮する必要があります。また、施工段階での変更は大幅なコスト増加を招くため、基本設計段階までに主要な仕様を確定させることが経済的です。
投資効果を最大化するには、初期段階での十分な時間投資が後のコスト削減につながるという原則を理解することが重要です。急いで基本設計を固めると、実施設計や施工段階で修正が必要になり、結果として総コストと工期が増大するリスクが高まります。
建築設計の流れで基本計画と敷地調査を進める
建築設計の流れの初期段階である基本計画と敷地調査は、プロジェクトの成否を左右する重要なフェーズです。この段階では、建築主の要望を整理し、敷地の特性と法規制を正確に把握することで、実現可能な計画の枠組みを設定します。表面的な希望を聞くだけでなく、事業目的やビジネスモデルを深く理解し、建築が生み出すべき価値を明確にすることが求められます。
敷地調査と法規制の確認
敷地調査では、測量による正確な敷地形状の把握、地質調査による地盤状況の確認、周辺環境の分析を行います。地盤の強度によっては基礎工事のコストが大きく変動するため、早期の地質調査は予算計画の精度を高めます。また、敷地へのアクセス道路の幅員、高低差、隣地との関係、日照・通風条件なども詳細に調査し、設計の制約条件を明確にします。
法規制の確認では、都市計画法による用途地域、建蔽率、容積率の制限を確認します。建築基準法に基づく構造基準、防火規制、避難規定なども詳細に検討し、計画の実現可能性を法的側面から検証します。商業施設や病院などの特殊建築物では消防法やバリアフリー法などの追加規制も適用されるため、専門的な知識が必要です。
さらに景観条例や地区計画などの地域独自の規制、埋蔵文化財包蔵地の有無、インフラ整備状況なども調査対象となります。これらの調査結果を総合的に分析することで、敷地のポテンシャルと制約を正確に把握し、最適な建築計画の方向性を導き出すことができます。
要望整理とプログラム作成
建築主の要望整理では、表面的なデザインの好みだけではなく、事業戦略、ターゲット顧客、運営方針、将来の拡張計画などを深く理解することが重要です。商業建築では売上目標や投資回収期間、病院では診療方針や患者動線、オフィスでは働き方改革の方針など、建築が支援すべきビジネス目標を明確にします。このプロセスでは、建築主自身も気づいていない潜在的なニーズを引き出す対話力が設計者に求められます。
プログラム作成では、必要な諸室をリストアップし、それぞれの面積、機能、設備要件、相互の関係性を整理します。単に部屋を並べるのではなく、人の動き、物の流れ、情報の流れを三次元的に構想し、効率的で魅力的な空間構成の基盤を作ります。この段階で、事業収益に直結する重要エリアの配置と面積配分を戦略的に決定することが、投資効果を高める鍵となります。
また、予算計画との整合性を常に確認しながらプログラムを調整します。要望を全て実現すると予算を大幅に超過することが多いため、優先順位をつけてコストと価値のバランスを最適化する必要があります。この段階での妥協点の見極めが、後の設計段階での手戻りを防ぎ、プロジェクトを円滑に進める基盤となります。
ゾーニングとラフプラン
ゾーニングでは、プログラムで整理した諸室を敷地内に配置する基本方針を決定します。パブリックゾーンとプライベートゾーン、顧客動線とサービス動線、静的空間と動的空間など、性質の異なるエリアを適切に分離・接続することで、機能的で快適な建築を実現します。商業施設では集客力の高いテナントの配置、病院では感染対策を考慮した動線計画など、用途特性に応じた専門的な判断が求められます。
ラフプランでは、ゾーニングを具体的な平面図に展開し、主要な空間の大きさと配置を検討します。この段階ではまだ詳細な寸法や仕上げは決めず、空間の骨格となる構成を探ります。複数の案を比較検討し、それぞれのメリット・デメリットを建築主と共有しながら、最適な方向性を絞り込んでいきます。
また、外観の基本的な方向性もこの段階で検討します。周辺環境との調和、ブランドイメージの表現、コストとのバランスを考慮しながら、建物のボリュームや主要な立面の構成を決定します。ラフプランの段階で大きな方向性が固まることで、次の基本設計段階での詳細検討がスムーズに進行します。
- 敷地測量と地質調査の実施
- 都市計画法・建築基準法などの法規制確認
- 建築主の事業目的とビジネスモデルの理解
- 必要諸室のリストアップと面積計画
- 予算計画との整合性確認
- ゾーニングと基本動線計画
- 複数のラフプラン案の比較検討
- 外観コンセプトの方向性設定
建築設計の流れで基本設計を確定する
基本設計は、ラフプランを具体的な建築として詳細化する段階です。平面計画、断面計画、立面計画を統合し、構造システムと設備システムの基本方針を決定します。この段階での決定事項は実施設計以降の変更が困難かつ高コストとなるため、建築主との十分な合意形成が不可欠です。デザインの美しさだけではなく、事業性、施工性、維持管理性を総合的に評価し、最適解を導き出すことが求められます。
平面図と断面図の確定
平面図の確定では、各室の正確な寸法、壁の位置、開口部の配置、家具レイアウトなどを詳細に決定します。単に面積を確保するだけでなく、使い勝手、視線の抜け、採光・通風、将来の可変性などを考慮した空間設計を行います。商業施設であれば売場効率とゾーン の視認性、病院であれば医療機器の配置と緊急動線、オフィスであれば協働とプライバシーのバランスなど、用途特性に応じた専門的な検討が必要です。
断面図では、階高、天井高、床レベル差などの垂直方向の構成を決定します。設備配管やダクトのスペース、構造部材の寸法を考慮しながら、経済的で合理的な断面計画を立案します。天井高は空間の印象と設備コストのバランスを取る重要な要素であり、用途やブランドイメージに応じた適切な設定が求められます。
この段階で、構造グリッド(柱の配置間隔)も確定します。構造グリッドは空間の自由度とコストに大きく影響するため、意匠・構造・設備の設計者が協議しながら最適解を見つけます。柱の位置一つが空間の使い勝手と建設コストを左右するため、初期段階での慎重な検討が長期的な投資効果を高めます。
意匠の方向性と素材選定
意匠設計では、外観デザインと内部空間のデザインコンセプトを確立します。ブランドアイデンティティの表現、周辺環境との関係性、時代性とタイムレス性のバランスを考慮しながら、独自性のあるデザインを創出します。単に目を引くデザインではなく、建築が生み出すべき体験価値を具現化し、事業目的を支援するデザインであることが重要です。
素材選定では、外装材、内装材、床材、建具などの主要な仕上げ材料を決定します。美観だけでなく、耐久性、メンテナンス性、コスト、環境負荷などを総合的に評価して選定します。商業施設では集客力を高める高品質な仕上げ、医療施設では清潔性と耐久性を重視した仕上げなど、用途に応じた適切な素材選定が求められます。
また、照明計画、サイン計画、ランドスケープ計画なども基本設計段階で方向性を決定します。これらは建築と一体となって空間体験を創出する重要な要素であり、早期から統合的に検討することで、完成度の高い建築を実現できます。特に商業建築では、グラフィックデザインを含めた一貫したデザインコントロールが、ブランド価値を高める強力な武器となります。
構造と設備の基本方針
構造設計では、建物の骨組みとなる構造システムを決定します。鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造など、建物の規模・用途・敷地条件に応じた最適な構造形式を選択します。構造形式の選択は建設コスト、工期、空間の自由度に大きく影響するため、意匠設計との緊密な協議が必要です。また、耐震性能のレベルも基本設計段階で決定し、建築主の事業継続計画(BCP)と整合させます。
設備設計では空調システム、給排水システム、電気設備、防災設備などの基本方針を決定します。省エネルギー性能、ランニングコスト、メンテナンス性、将来の更新容易性などを考慮しながら、最適なシステムを選定します。近年では、環境性能認証(CASBEE、LEEDなど)の取得や、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)への対応も検討事項となっています。
構造と設備の統合も基本設計段階での重要な課題です。設備配管やダクトのスペースを構造計画に組み込み、天井裏や床下のスペースを効率的に活用することで、階高を抑えコストを削減できます。また、将来の設備更新を見据えた配管ルートの計画も、長期的な建物価値を維持するために重要です。
- 詳細な平面計画と家具レイアウト
- 断面計画と階高・天井高の決定
- 構造グリッドと柱配置の最適化
- 外観・内装の意匠コンセプト確立
- 主要仕上げ材料の選定
- 構造形式と耐震性能レベルの決定
- 空調・給排水・電気設備の基本システム選定
- 省エネルギー性能目標の設定
- 工事費概算の精度向上
事例紹介:The Laminaesculapian(姫路第一病院)
ここまで解説してきた建築設計の流れや意匠・素材選定の考え方が、実際の建築プロジェクトでどのように形になっているのかを、弊社が手がけた事例を通してご紹介します。
兵庫県姫路市に建つThe Laminaesculapian(姫路第一病院)は、築56年が経過した総合病院の新築移転計画として進められた医療施設です。耐震性の確保や医療機能の更新といった必須条件に加え、「病院にいることを忘れるような、気分が晴れる建築・空間」を実現することが求められました。
■ プロジェクトの要点
- 計画背景:老朽化と耐震基準未達により、新築移転が必要となった総合病院の建替計画
- 設計方針:機能性と安全性を前提に、患者やスタッフの心理的負担を軽減する空間体験を重視
- 建物構成:建設コストを抑えるため、平面・立面ともに凹凸を抑えたシンプルな形状を採用
- 意匠手法:ファサード隅部を階段状に処理し、薄い外壁を重ねることで軽やかな外観印象を形成
- 素材選定:均質でシームレスな表情を持つ窯業系サイディングを外装材として使用
- コスト調整:耐火シートを下地に用いることで石膏ボード二重貼りを省略し、施工負担と工期を削減
| 用(機能性) | 病院として求められる明確な動線計画と清潔性を確保しつつ、 患者が安心して過ごせる空間構成を実現 |
|---|---|
| 強(構造・合理性) | 単純な建物形状と合理的な構法選択により、 建設費高騰下でも実現可能な計画とした |
| 美(美観) | 外壁の重なりとスリット開口によって、 量感のある病院建築を軽やかに見せる外観表現を創出 |
The Laminaesculapianは、意匠をコストの犠牲にするのではなく、構成と素材の選び方によって美しさを成立させた建築事例です。病院建築においても機能・合理性・意匠を分断せずに統合することで、建築そのものが人の感情に作用する空間となり得ることを示しています。
まとめ
この記事では、建築設計の流れの全体像から、基本計画・敷地調査・基本設計の各段階における具体的な検討内容まで詳しく解説しました。建築プロジェクトは、相談・ヒアリングから始まり、企画設計、基本設計、実施設計、確認申請、施工監理、引き渡し、メンテナンスという一連のステップで進行します。各段階は相互に関連しており、前段階での意思決定が後工程のコストと品質を左右するため、初期段階での慎重な検討が投資効果を最大化する鍵となります。
特に、敷地調査と法規制の確認、建築主の要望整理、ゾーニングとラフプラン、平面図と断面図の確定、意匠の方向性と素材選定、構造と設備の基本方針決定は、建築の成否を決定づける重要なプロセスです。これらのステップを丁寧に進めることで、機能的で美しく、事業目的を強力に支援する建築を実現できます。
「商業建築の設計は、ただ美しい箱を作りだすためのプロセスであってはならない。」というのが、私達KTXの考え方です。
より大きなベネフィットを生む建築を創り出し、投資に見合う利益を還元するビジネスツールを我々は設計しています。建築設計からインテリアの空間デザイン、グラフィックに至るまで、あらゆるデザインを一貫してコントロールすることであなたのビジネスに強力な付加価値を生み出します。もし、建築設計についてお悩みなのであれば、是非一度我々にご相談ください。
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2025.12.26

【この記事を書いた人 松本哲哉】
KTXアーキラボ代表・一級建築士・大阪芸術大学非常勤講師
2024年度イタリアDAC認定デザイナーランキング世界8位(日本国内1位)
【お問い合わせ先】
KTXアーキラボ一級建築士事務所
東京都港区南麻布3-4-5 エスセナーリオ南麻布002
兵庫県姫路市船丘町298-2 日新ビル2F
事業内容
飲食店・クリニック・物販店・美容院などの店舗デザイン・設計
建築・内装工事施工
メール:kentixx@ktx.space
電話番号:03-4400-4529(代表)
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