歯科医院の設計で大切な3つのポイント|患者満足とスタッフ動線を両立するデザインとは

 
     
  • 公開日:2025/12/07
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  • 最終更新日:2025/12/08

歯科医院の開業や移転において、設計の巧拙は経営の成否を大きく左右します。患者が初めて訪れた瞬間に感じる安心感、スタッフが日々の診療をスムーズにこなせる動線、さらに感染対策と設備の最適配置──これら3つのポイントが揃ってはじめて、患者満足度の向上と経営効率の両立が実現するのです。設計段階で見落とした課題は、開業後に大きなコストと時間を要する改修につながり、医院の評判や収益性にも影響を及ぼします。

内科クリニックデザイン 芦屋

この記事では、歯科医院の設計で大切な3つのポイントを具体的に解説し、患者満足とスタッフ動線を両立するデザインの秘訣をお伝えします。

歯科医院の設計で大切なポイント1. 患者が安心して通える空間作り

歯科医院を訪れる患者は不安や緊張を抱えています。とくに待合室と受付エリアは、患者が最初に接する空間であり、第一印象を決定づける重要なゾーンです。動線や照明、家具の配置などの配慮で快適さが高まると通院継続や口コミ評価が向上し、医院のブランド価値につながります。設計段階で患者心理を徹底的に考慮することが重要になるのです。

事例紹介:子どもたちが行きたくなる歯科内装デザイン(NEO ToothLand)

NEO ToothLand(横浜ゆうみらい小児歯科・矯正歯科 ポートサイドクリニック)の事例は、小児歯科の特性に合わせて、患者の不安を払拭し、来院意欲を高めるデザイン戦略を具現化しています 。

■ プロジェクトの要点

  • コンセプト:子どもたちが行きたくなるワクワクする小児歯科
  • 空間設計:天井高約5.7mの空間に、室内に緑豊かな丘を創出し、外部公園と室内丘をガラスで接続
  • 患者動線:受付・待合空間を丘の外側に配置し、丘の側面に開口部を設けた洞窟のような動線
  • 採光:一部診察ブースの頭上に丘へ繋がる縦穴があり、上から光と植物が覗く
  • テクノロジー:キャッシュレス清算、無人受付機、スマートフォンで患者呼び出しなど、新しい歯科クリニックのカタチを体現
「用・強・美」で見る価値
用(機性) 「洞窟探検」という遊びの要素を動線に組み込むことで、小児患者の不安を軽減し、来院意欲を促進
強(構造・耐久性) 天井高5.7mのタワーレジデンス1階テナントという既存の構造特性を最大限に活用したデザイン
美(美観) 「緑豊かな丘」と「洞窟」という非日常的な空間が、医院のアイデンティティを明確にし、集客装置として機能

患者とスタッフの動線を分けて快適な空間をつくる

歯科医院の内装において患者動線とスタッフ動線を明確に分けることは、快適性と運営効率の両面で欠かせません。患者動線とは、エントランスから受付、待合室、診療室、会計、トイレまでの一連の移動経路を指します。一方、スタッフ動線は、受付カウンター裏から消毒室、レントゲン室、診療室、在庫管理スペースへと続く業務上の移動経路です。これらが交差すると、患者は診療器具や洗浄中の機材を目にする機会が増え、不快感や不信感を抱きやすくなります。また、スタッフも患者の動線を気にしながら作業せざるを得ず、診療効率が低下します。

ゾーニングの段階で、患者エリアとバックヤードエリアを物理的に区分し、スタッフ専用通路を設けることが理想的です。たとえば、診療ユニットが並ぶ診療室の奥に滅菌室や技工スペースを配置し、スタッフがそこへ直接アクセスできる通路を確保します。受付カウンターも、患者側と裏側を完全に分離し、スタッフが裏から出入りしやすいレイアウトにすることで、患者との接触頻度を減らしつつ、業務の流れをスムーズにします。動線設計が明確であれば、待ち時間のストレスも軽減され、患者満足度が大きく向上するのです。

照明と素材で安心感と清潔感を演出する

歯科医院のデザインにおいて、照明計画と内装素材の選定は患者の心理に直接作用します。とくに待合室や受付エリアは、患者が長時間過ごす可能性がある空間であり、自然光に近い色温度の照明と柔らかな間接照明の組み合わせが、リラックス効果を生み出します。蛍光灯の冷たい白色光は清潔感を演出する反面、緊張感を高める傾向があるため、エリアごとに照度と色温度を使い分けることが重要です。

内装素材についても、清掃のしやすさと視覚的な安心感を両立させる選択が求められます。床材には抗菌性や防滑性に優れたビニルタイルや長尺シート、壁材には汚れが付きにくく拭き取りやすいメラミン化粧板やビニルクロスを採用するのが一般的です。また、受付カウンターや待合室の家具には木目調の素材を取り入れることで、医療施設特有の冷たさを和らげ、患者に安心感を与えることができます。色彩計画も重要で、白とベージュを基調としつつ、アクセントカラーとしてグリーンやライトブルーを配することで、清潔感と落ち着きを同時に演出できます。

バリアフリー設計でプライバシーと利便性を両立する

高齢化社会が進む中、歯科医院の設計においてバリアフリー対応は必須要件となっています。車椅子やベビーカーを利用する患者がストレスなく移動できるよう段差の解消やスロープの設置、広めの通路幅の確保が求められます。さらに多目的トイレの設置や、受付カウンターの一部を低めに設計することで、すべての患者が快適に利用できる環境を整えることができます。

一方で、プライバシーへの配慮も患者満足度に直結します。待合室から診療室内が見えてしまうレイアウトや、診療ユニット同士が近接しすぎている配置は、患者に不安を感じさせます。診療室のレイアウトでは、個室診療を基本とし、パーテーションやカーテンで視線を遮る工夫が有効です。また、受付カウンターでの会話内容が待合室全体に聞こえないよう、カウンター位置や天井の吸音材配置にも配慮します。バリアフリーとプライバシーは対立するものではなく、適切なゾーニングと素材選定によって両立可能であり、それこそが患者に選ばれる医院づくりの基盤となります。

歯科医院の設計で大切なポイント2. スタッフが働きやすい動線設計

歯科医院の経営効率を高めるためには、スタッフが無駄な動きをせず、安全かつスムーズに業務を遂行できる動線設計が不可欠です。またスタッフ動線の最適化は、診療時間の短縮と医療ミスの予防に直結するため、設計段階での綿密なシミュレーションが求められます。

診療ユニットの配置を最適化して作業効率を高める

診療ユニットの配置は、歯科医院の心臓部ともいえる重要な設計要素です。ユニット間の距離が遠すぎると歯科医師や歯科衛生士が移動に時間を取られ、1日あたりの診療可能件数が減少します。逆に近すぎるとプライバシーが損なわれ、機器のメンテナンススペースも不足します。

また診療ユニットを直線配置にするか、コの字型やアイランド型にするかも診療効率に影響します。直線配置は動線が単純で視認性が高い反面、奥のユニットへの移動距離が長くなります。コの字型配置は中央に器材置き場やカルテ管理スペースを設けることで、すべてのユニットへのアクセスが均等になり、スタッフの移動距離を最小化できます。

診療ユニット配置パターンの比較
配置パターン メリット デメリット 推奨される医院規模
直線配置 視認性が高く管理しやすい 奥のユニットへの移動距離が長い 小規模(ユニット2〜3台)
コの字型配置 中央に器材スペースを確保でき移動距離が均等 広い床面積が必要 中規模(ユニット4〜6台)
アイランド型配置 多方向からアクセスでき効率的 プライバシー確保に工夫が必要 大規模(ユニット7台以上)

滅菌・消毒の動線を短縮して交差汚染を防ぐ

歯科医院における感染対策の中核は、使用済み器具の回収から洗浄、滅菌、保管、再利用までの一連のフローを適切に管理することです。この滅菌動線が長く複雑であると、汚染器具と清潔器具が交差するリスクが高まり、院内感染の温床となります。消毒室設計では、汚染エリア(洗浄ゾーン)と清潔エリア(滅菌・保管ゾーン)を明確に区分し、一方通行の動線を確保することが原則です。

理想的な配置は、診療室に隣接する形で消毒室を設け、使用済み器具を即座に回収できる窓口またはカウンターを設置することです。洗浄後の器具は滅菌器(オートクレーブ)を経て、清潔エリアの保管棚に収納され、再び診療室へと戻ります。この一連の流れが最短距離で完結するよう設計すれば、スタッフの作業負担が減り、器具の紛失や取り違えも防げます。また、消毒室には十分な換気設備と防水性の高い床材を採用し、高温多湿環境でもカビや雑菌が繁殖しにくい環境を整えることが重要です。滅菌動線の短縮は、診療効率の向上だけでなく、患者と医療スタッフ双方の安全を守る基盤となります。

在庫管理と処理動線を効率化する

歯科医院では、治療材料、消耗品、医薬品など多種多様な在庫を日常的に管理する必要があります。在庫管理スペースが診療室から離れすぎていると、必要な材料を取りに行く手間が発生し、診療の中断や待ち時間の増加につながります。逆に、在庫スペースが診療室内に混在していると、清潔度の維持が難しくなり、整理整頓も困難です。適切なのは、診療室とバックヤードの中間に専用の在庫管理室(または大型収納スペース)を設け、スタッフが短時間でアクセスできる配置です。

在庫管理室の設計では、使用頻度の高い材料を手前に、低頻度のものを奥に配置する「ABC分析」に基づいた棚割りが有効です。また、引き出し式の収納や透明な扉付きキャビネットを活用することで、視認性を高め、在庫の過不足を即座に把握できます。さらに、医療廃棄物の処理動線も重要であり、感染性廃棄物と一般廃棄物の分別が確実に行える専用ゴミ箱の配置、外部業者による回収ルートへの動線確保が求められます。在庫管理と処理動線が最適化されることで、スタッフは本来の診療業務に集中でき、医院全体の生産性が向上します。

スタッフ動線最適化のチェックリスト
  • 診療ユニットから消毒室まで10歩以内でアクセスできるか
  • 汚染エリアと清潔エリアが明確に区分されているか
  • 在庫管理室が診療室とバックヤードの中間に配置されているか
  • 医療廃棄物の回収ルートが患者動線と交差しないか
  • スタッフ専用通路が確保されているか

歯科医院の設計で大切なポイント3. 感染対策と設備計画で安心の医院をつくる

新型コロナウイルス感染症の流行以降、患者の感染対策への意識は大きく高まり、歯科医院選びにおいても「安全性」が重要な判断基準となっています。また設備配置の最適化は、開業後のランニングコスト削減にも直結し、経営の持続可能性を左右する重要な要素となります。感染対策と運用効率の両立は、一見相反するように思えますが、適切な設計と素材選定によって同時達成が可能です。

換気・空調設計で空気環境を清潔に保つ

歯科診療では、治療中に発生するエアロゾル(微細な飛沫)によって、空気中にウイルスや細菌が浮遊するリスクがあります。このため、診療室の換気回数を増やし、空気の流れを制御する空調設計が不可欠です。

空調システムには、全館空調と個別空調がありますが、歯科医院では各診療室の使用状況に応じて温度・湿度を調整できる個別空調が適しています。さらに、HEPAフィルター(高性能エアフィルター)を搭載した空気清浄機を併用することで、微粒子の除去率を高めることができます。また、診療室内の空気の流れを「陰圧」に保つことも重要です。これは、診療室内の気圧を待合室や廊下よりわずかに低く設定することで、汚染空気が外部に漏れ出すのを防ぐ手法です。換気と空調設計への投資は、患者とスタッフ双方の健康を守り、医院の評判向上にも寄与します。

耐久性の高い素材で清掃負担を減らす

歯科医院の内装工事費用を抑えつつ、長期的な運用コストを削減するには、耐久性と清掃性に優れた素材の選定が欠かせません。診療室の床材には、抗菌性と耐薬品性を兼ね備えたビニル系長尺シートや、防滑性の高い磁器質タイルが適しています。これらの素材は、消毒液や血液、唾液などが付着しても変色しにくく、拭き取り清掃が容易です。壁材には、ビニルクロスやメラミン化粧板、ガラス繊維強化石膏ボードなど、汚れが染み込まず、水拭きや薬剤拭きに耐える素材が推奨されます。

天井材も見落とせません。診療室やレントゲン室では、湿気や臭気がこもりやすいため、防カビ性能の高い化粧石膏ボードや、吸音性と抗菌性を兼ね備えた岩綿吸音板が有効です。また、受付カウンターや待合室の家具には、抗菌コーティングされた樹脂製または人工大理石製の天板を採用することで、清掃頻度を減らしつつ清潔感を維持できます。耐久性の高い素材は初期投資がやや高額になる場合もありますが、張替えや補修の頻度が減り、トータルコストでは有利になるケースが多く、長期的な視点での選定が重要です。

清掃しやすい内装素材の選定ポイント
  • 床材:ビニル系長尺シート、磁器質タイル(防滑・抗菌性)
  • 壁材:ビニルクロス、メラミン化粧板(耐薬品性・拭き取り容易)
  • 天井材:化粧石膏ボード、岩綿吸音板(防カビ・吸音性)
  • 家具:抗菌コーティング樹脂、人工大理石(耐久性・清潔感)
  • カウンター:人工大理石、ステンレス(耐薬品・耐水性)

電気水道の配置で機器稼働とメンテを容易にする

歯科医院では、診療ユニット、滅菌器、レントゲン装置、吸引装置など、多数の医療機器を同時に稼働させるため、電気容量と配線計画が非常に重要です。設計段階で、各機器の消費電力を正確に把握し、余裕を持った電気容量(一般的には診療ユニット1台あたり30A程度)を確保する必要があります。また、将来的な機器の追加や更新を見越して、予備のコンセントや配線用の配管スペース(PF管やCD管)を設けておくことが賢明です。

水道配管についても、診療ユニットごとに給水・排水ラインを確保し、コンプレッサー(圧縮空気供給装置)やバキューム(吸引装置)への配管ルートを最短化することで、圧力損失を最小限に抑えます。とくに消毒室では、大量の水を使用するため、排水トラップの詰まり防止策(グリーストラップの設置や定期清掃の仕組み)を設計段階で組み込むことが重要です。さらに、電気・水道の配線配管を壁内や床下に隠蔽しつつ、メンテナンス時にアクセスしやすい点検口を設置することで、美観と実用性を両立できます。設備配置の最適化は、開業後のトラブル発生頻度を減らし、長期的な運営の安定性を支える基盤となります。

設備配置チェックリスト
設備項目 設計時の確認ポイント 推奨仕様
電気容量 全機器の合計消費電力+余裕率30% 診療ユニット1台あたり30A確保
給水配管 各ユニットへの最短ルート確保 配管長10m以内、圧力損失最小化
排水トラップ 詰まり防止策と点検口設置 グリーストラップ併用、定期清掃計画
予備配線 将来の機器追加を見越した配管スペース PF管・CD管を壁内・床下に配置

まとめ

この記事では、歯科医院の設計で大切な3つのポイントを詳しく解説しました。患者動線とスタッフ動線の明確な分離、照明・素材による安心感の演出、バリアフリーとプライバシーの同時実現、診療ユニットや滅菌動線の最適配置、換気・空調・耐久素材・設備配置の工夫、これらすべてが揃ってはじめて、患者に選ばれ続け、スタッフが長く働きたいと思える歯科医院が完成します。設計段階での綿密な計画と投資が、開業後の評判や収益性を大きく左右することを忘れず、医院開業支援の専門家や設計事務所と密に連携しながら、理想の医院づくりを進めてください。

「商業建築の設計は、ただ美しい箱を作りだすためのプロセスであってはならない。」というのが、私達KTXの考え方です。

より大きなベネフィットを生む建築を創り出し、投資に見合う利益を還元するビジネスツールを我々は設計しています。建築設計からインテリアの空間デザイン、グラフィックに至るまで、あらゆるデザインを一貫してコントロールすることであなたのビジネスに強力な付加価値を生み出します。もし、建築設計についてお悩みなのであれば、是非一度我々にご相談ください。

KTXアーキラボでは、患者様の満足とスタッフ動線を両立する歯科医院の設計をご提案しております。お気軽にお問い合わせください。

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2025.12.7


松本 哲哉

【この記事を書いた人 松本哲哉】

KTXアーキラボ代表・一級建築士・大阪芸術大学非常勤講師

2024年度イタリアDAC認定デザイナーランキング世界8位(日本国内1位)

ウィキペディア 松本哲哉(建築家)


【お問い合わせ先】

KTXアーキラボ一級建築士事務所

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