オフィス設計の完全ガイド!建築設計がもたらす働きやすい環境づくり

 
     
  • 公開日:2025/11/24
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  • 最終更新日:2025/11/24

働き方改革やDXの推進により、オフィスに求められる役割は大きく変化しています。単なる作業スペースではなく、従業員のウェルビーイングを高め、創造性を引き出し、組織の帰属意識を育む「戦略的な場」としてのオフィス設計は企業の競争力に強く影響します。テレワークの普及によって出社の価値が問われる今、建築設計の視点からオフィス環境を見直すことは経営判断として極めて重要でしょう。

この記事では、オフィス設計の基本から具体的な進め方、エリア別のポイント、法規制とコスト管理まで、経営者や施設管理者が知るべき情報を包括的に解説します。

社屋設計 オフィスデザイン

オフィス設計とは

オフィス設計は、企業の経営戦略や組織文化を空間に落とし込む、建築設計とインテリアデザインが融合したプロセスです。単に机や椅子を配置するだけでなく、従業員の働き方、コミュニケーションの質、企業ブランドの表現まで、多層的な要素を統合的に計画することが求められます。

オフィス設計の定義


オフィス設計とは、企業活動を支える物理的環境を創造する行為であり、建築的な空間構成から家具配置、照明計画、音環境、空調設備に至るまでを包括的に設計するプロセス
を指します。近年では、ABW(Activity Based Working)やスマートオフィスといった概念が注目され、従業員が業務内容に応じて最適な場所を選択できる多様性に富んだ空間設計が求められています。

従来のオフィス設計が「効率」と「管理」を重視していたのに対し、現代のオフィス設計は「自律性の促進」と「公平性」を核とした思想へと転換しています。これは、働く人々の多様なニーズに応えながら、誰もが等しく快適に働ける環境を実現することを意味します。フリーアドレス制やユニバーサルデザインの導入、バイオフィリックデザインによる自然要素の取り入れなど、人間中心の設計思想が主流となっています。

建築設計の専門家は、構造や法規制といった技術的側面だけでなく、組織心理学や行動科学の知見も活用しながら、企業の生産性向上と従業員満足度の両立を目指します。オフィスデザインは、企業の理念を可視化し、採用力や定着率にも影響を与える重要な経営資源として位置づけられるようになりました。

オフィス設計が重要な理由

オフィス設計が重要である理由は、従業員の生産性や創造性、そして帰属意識に直接的な影響を与えるからです。ハーバード大学の研究によれば、物理的な環境が従業員のパフォーマンスに与える影響は想像以上に大きく、適切に設計されたオフィスは生産性を最大15%向上させるというデータもあります。特に、自然光の取り入れや空気質の管理、適切な音環境の確保は、従業員のウェルビーイングと密接に関連しています。

また、SDGsへの関心が高まる中、環境配慮型のオフィス設計は企業の社会的責任を示す指標としても機能します。省エネルギー設備の導入、再生可能素材の使用、LEED認証やCASBEE評価の取得など、サステナブルな建築設計は企業イメージの向上だけでなく、長期的な運用コストの削減にもつながります。

さらに、テレワークが普及した現在、オフィスの存在意義は「出社しなければできないこと」を提供することにシフトしています。対面でのコミュニケーションスペースや、集中して創造的な作業ができる環境、企業文化を体感できる場としての機能が重視されるようになりました。ワークインライフの実現を支えるオフィス設計は、従業員エンゲージメントを高め、優秀な人材の獲得と定着に貢献します。

オフィス設計の進め方

効果的なオフィス設計は、綿密な計画と段階的なプロセスを経て実現されます。単に美しい空間を作るのではなく、企業のビジョンを反映し、従業員の働き方を支援し、将来的な変化にも対応できる柔軟性を持った設計が求められます。

現状把握と課題抽出

オフィス設計の第一歩は、現状のオフィス環境と働き方を正確に把握することです。従業員へのヒアリングやアンケート調査、行動観察を通じて、現在のオフィスが抱える課題を可視化します。例えば、会議室が常に不足している、集中できるスペースがない、部署間のコミュニケーションが希薄といった具体的な問題点を洗い出すことが重要です。

この段階で有効なのが、スペースの利用状況を定量的に測定することです。各エリアの稼働率、従業員の動線、滞在時間などをデータ化することで、感覚的な判断ではなく、エビデンスに基づいた設計が可能になります。また、経営層へのインタビューを通じて、今後の事業計画や組織変更の予定、採用計画なども把握しておく必要があります。オフィス設計は5年から10年先を見据えた投資であるため、将来的な組織規模や働き方の変化を想定した設計が求められます。

現状把握で収集すべき情報
  • 従業員数と今後の増減予測
  • 部署別の人員構成と業務内容
  • 現在のスペース利用状況と課題
  • 働き方の実態(テレワーク率、出社率など)
  • IT環境と設備の現状
  • 予算規模と投資回収の考え方

コンセプト策定とビジョンの共有

現状分析の結果を踏まえ、新しいオフィスが目指すべき方向性を「コンセプト」として明文化します。コンセプトは、単なるデザインの方針ではなく、企業の経営理念や組織文化を空間に翻訳したビジョンとして機能します。例えば、「イノベーションを促進するオープンな空間」「多様な働き方を支援するフレキシブルなオフィス」といった明確な方向性を示すことで、関係者全員が同じゴールを共有できます。

コンセプト策定では、経営層、人事部門、現場の従業員代表など、多様なステークホルダーを巻き込むことが成功の鍵となります。ワークショップ形式で理想のオフィス像を議論したり、他社の先進事例を視察したりすることで、具体的なイメージを共有できます。

ビジョンの共有は、設計段階だけでなく、実際に新オフィスを使い始めてからの運用にも影響します。従業員がオフィスのコンセプトを理解し、設計意図を汲んだ使い方をすることで、投資効果は最大化されます。そのため、コンセプトブックやガイドラインを作成し、社内に広く周知する取り組みも重要です。

ゾーニングとレイアウト決定

コンセプトが固まったら、具体的な空間配置を決める「ゾーニング」と、詳細な「レイアウト」の検討に入ります。ゾーニングとは、オフィス全体をどのようなエリアに分けるかを決定するプロセスで、例えばエントランスゾーン、執務エリア、会議ゾーンなど、機能ごとにエリアを設定します。この際、動線計画が極めて重要です。頻繁に往来するエリア同士を近接させる、静かな環境が必要なエリアは騒音源から離すなど、業務効率とウェルビーイングの両面から最適な配置を検討します。

レイアウト決定では、ABWの考え方を取り入れることが有効です。従業員が業務内容に応じて最適な場所を選べるよう、集中作業向けの個室ブース、チームでのコラボレーション向けのオープンスペース、リラックスして創造的思考を促すラウンジなど、多様な「働く場」を用意します。フリーアドレス制を導入する場合は、個人のロッカーや荷物置き場、パーソナライズできる要素をどう確保するかも検討が必要です。

効果的なゾーニングの基本原則
原則 内容
動線の最適化 頻繁に移動する部署やエリアを近接配置し、無駄な移動を削減
音環境の管理 集中作業エリアと会議室・コミュニケーションスペースを分離
自然光の活用 窓際は共用スペースやリフレッシュエリアに配分し、公平性を確保
柔軟性の確保 将来的な組織変更に対応できる可動間仕切りやモジュール家具の採用

実行スケジュールと予算管理

設計が固まったら、実行フェーズに移ります。オフィス設計プロジェクトは、設計期間、施工期間、移転準備期間を含めると、通常6ヶ月から1年以上を要します。特に、既存オフィスの原状回復工事や新オフィスの内装工事は、建築確認申請や消防署への届出など、法的手続きに時間がかかる場合があるため、余裕を持ったスケジュールを立てることが重要です。

予算管理では、初期投資だけでなく、運用コストも含めた総保有コストの視点が必要です。高効率な空調設備や照明は初期投資が高くても、長期的には光熱費削減につながります。また、DX推進の観点から、スマートオフィス化のための各種センサーやIoT機器、高速ネットワーク環境の整備なども検討すべき項目です。

プロジェクト管理では、設計事務所、施工会社、家具メーカー、IT業者など、複数のパートナーとの調整が発生します。統括的なプロジェクトマネジメントを行える専門家を起用することで、品質、コスト、納期のバランスを取りながら、円滑にプロジェクトを進めることができます。

エリア別のオフィス設計ポイント

オフィスは機能の異なる複数のエリアで構成されており、それぞれに適切な設計アプローチが求められます。企業の顔となるエントランスから、知的生産性を左右する執務スペース、戦略的な会議の場まで、各エリアの設計が全体の成功を左右します。

エントランスと受付の設計

エントランスは「企業の顔」であり、来訪者に第一印象を与える極めて重要な空間です。ここでの設計は、企業のブランドイメージや文化を視覚的に表現する機会であり、信頼感や先進性、温かみといった印象をデザインで伝えることができます。大手企業のエントランスでは、企業のヒストリーを展示したり、製品やサービスを体感できるショーケース的な機能を持たせたりする例も増えています。

受付デザインでは、セキュリティと開放感のバランスが重要です。無人受付システムやタブレット端末を活用したデジタル受付を導入することで、人件費削減と同時に、スマートな印象を与えることができます。ただし、ホスピタリティを重視する企業では、有人受付の方が適している場合もあります。また、エントランスホールには待合スペースを設け、Wi-Fi環境や充電設備を完備することで、来訪者の利便性を高めることができます。

照明計画も印象を大きく左右します。自然光を効果的に取り入れつつ、間接照明やアクセント照明を組み合わせることで、洗練された雰囲気を演出できます。さらに、バイオフィリックデザインの考え方を取り入れ、緑化や水の要素を配置することで、リラックス効果と自然との調和を感じさせる空間を実現できます。エントランスは単なる通過点ではなく、企業価値を伝えるブランディング空間として戦略的に設計すべきです。

会議室と応接室の設計ポイント

会議室は、オフィスの中でも利用頻度が高く、重要な意思決定が行われる場です。しかし、多くの企業では「会議室が足りない」という課題を抱えています。この問題を解決するには、会議室の数を増やすだけでなく、多様なサイズとスタイルの会議スペースを用意することが効果的です。2~3名の小規模ミーティング用のボックス型個室、10名程度の中会議室、20名以上の大会議室など、用途に応じた選択肢を提供します。

近年では、オンライン会議の普及により、会議室のIT環境整備が必須となっています。高品質なマイク・スピーカーシステム、大型ディスプレイ、書画カメラなどの機器を標準装備することで、リモート参加者も対等にコミュニケーションできる環境を整えます。また、ホワイトボードの内容をデジタル保存できるスマートボードや、予約状況が一目でわかるドアサイネージなども、効率的な会議運営を支援します。

会議室設計のチェックリスト
  • 参加人数に応じた複数サイズの会議室配置
  • オンライン会議対応のAV機器整備
  • 遮音性能と音響設計の最適化
  • フレキシブルなレイアウト変更が可能な家具選定
  • 予約管理システムと連動した運用設計
  • 自然光と照明のバランスを考慮した配置

応接室は、重要な商談や役員面談に使用される特別な空間です。落ち着いた色調と上質な素材選定により、格式と信頼感を演出します。防音性能は特に重視すべきポイントで、機密性の高い会話が外部に漏れないよう、適切な遮音措置が必要です。

役員室と集中ブースの設計

役員室の設計には、プライバシー、セキュリティ、そして象徴性という3つの要素が求められます。経営判断に関わる機密情報を扱う場であるため、高い遮音性と情報セキュリティ対策が必須です。しかし近年では、オープンな経営姿勢を示すため、あえてガラス張りの役員室を採用する企業も増えています。この場合、必要に応じてブラインドやスマートガラスで視線をコントロールできる仕組みを取り入れます。

役員室の家具やインテリアは、企業のステータスを表現する要素でもあります。ただし、過度に豪華な内装は、従業員や来訪者に威圧感を与える可能性もあるため、企業文化に合った適度な格式を保つことが重要です。また、執務スペースだけでなく、来客用の応接エリアや、リラックスして思考を整理できる読書コーナーなど、複数の機能を持たせることで、役員の多様な業務スタイルを支援できます。

一方、集中ブースは、近年のオープンオフィス化に伴い、ますます需要が高まっているスペースです。周囲の音や視線を遮断し、高い集中力が必要な作業に没頭できる環境を提供します。電話ブース型の個室や、1~2名用の簡易ブースなど、様々な形態がありますが、いずれも遮音性と適切な換気・照明が重要です。利用時間を制限し、多くの従業員が公平に使えるルール設定も、運用上の成功要因となります。

兵庫県姫路市の建築設計事例 TIA事務所社屋ビルの外装デザイン

事例紹介:多様なオフィス・教育施設の設計実績

KTXアーキラボ オフィス設計実績 を基に、プロジェクトの種別や規模に応じた戦略的な設計について詳しく見ていきましょう。

■ プロジェクトの要点

  • コンセプト:企業の成長と組織文化を支える柔軟な空間、および教育機関としてのブランド力向上。
  • 形態と素材:新築(Polycuboid TIA Bldg. / 188坪)から短工期の内装改装(松尾学院 / 1ヶ月)まで、目的と工期に応じた最適な工法と資材を選定。
  • 設備計画:坪数や工期に合わせた効率的な空調・電気設備導入と、従業員のウェルビーイングを高める照明計画。
  • 床仕上げ:機能的なオフィスフロアから、ブランドイメージを体現するエントランスデザインまで幅広く対応。
  • 名称と象徴性:建築物(Polycuboid)や空間(White Steel)のデザインコンセプトを名称に付与し、企業や施設のイメージを強化。
「用・強・美」で見る価値
用(機能性) 坪数(34坪~188坪)と工期(1ヶ月~1年)に合わせたゾーニングとレイアウトにより、業務効率と移転スケジュールを両立。
強(構造・耐久性) 新築では長期的な堅牢性を、内装改装では既存構造の制約下でのコスト効率と品質維持を追求。
美(美観) 企業の理念や教育機関としての先進性を可視化するデザインを実現し、採用力や生徒募集力の向上に貢献。

この事例が示すように、設計事務所はプロジェクトの種別と規模に応じて、最適なレイアウトと実現可能な工期を提案します。高度なデザイン性と、予算・スケジュールといった現実的な制約を統合し、最大のビジネスベネフィットを生み出すことが建築設計の役割です。

まとめ

この記事では、オフィス設計の基本的な考え方から、具体的な進め方、エリア別の設計ポイント、そして法規制やコスト管理に至るまで、経営者や施設管理者が知るべき包括的な情報を解説しました。オフィス設計は、単なる物理的空間の整備ではなく、企業の経営戦略を体現し、従業員のウェルビーイングと生産性を高める重要な経営資源です。働き方が多様化し、テレワークが普及した現代において、オフィスの存在意義を再定義し、「わざわざ出社する価値」を提供する空間を創造することが求められています。

建築設計の専門家と協力しながら、法規制を遵守し、予算を適切に管理しつつ、企業のビジョンを反映した質の高いオフィスを実現することで、採用力の向上、従業員満足度の向上、そして長期的な企業価値の向上につながります。あなたの会社にとって最適なオフィス環境を実現するための第一歩を、ぜひ踏み出してください。

「商業建築の設計は、ただ美しい箱を作りだすためのプロセスであってはならない。」というのが、私達KTXの考え方です。

より大きなベネフィットを生む建築を創り出し、投資に見合う利益を還元するビジネスツールを我々は設計しています。建築設計からインテリアの空間デザイン、グラフィックに至るまで、あらゆるデザインを一貫してコントロールすることであなたのビジネスに強力な付加価値を生み出します。もし、建築設計についてお悩みなのであれば、是非一度我々にご相談ください。

KTXアーキラボでは、働きやすい環境を作るオフィスの設計をご提案しております。お気軽にお問い合わせください。

弊社の設計事例についてはコチラの作品集をご覧ください

2025.11.24

松本 哲哉

【この記事を書いた人 松本哲哉】

KTXアーキラボ代表・一級建築士・大阪芸術大学非常勤講師

2024年度イタリアDAC認定デザイナーランキング世界8位(日本国内1位)

ウィキペディア 松本哲哉(建築家)


【お問い合わせ先】

KTXアーキラボ一級建築士事務所

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