【病院設計とスマートシティの融合──持続可能な地域づくりへの提案】

 
     
  • 公開日:2024/12/25
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  • 最終更新日:2024/12/25

【病院設計とスマートシティの融合──持続可能な地域づくりへの提案】

東京・港区および兵庫・姫路市にオフィスを構える建築設計事務所KTXアーキラボです。私たちはこれまで、病院・医療施設をはじめとする公共施設や複合施設の設計・監理に携わってきました。本記事では、昨今注目を集めている「スマートシティ」と「病院」の統合的なあり方について考察します。
スマートシティが目指す多機能・高度な都市の実現において、病院はまちの中核機能として欠かせない存在です。厚生労働省の提唱する地域包括ケアシステムや公的病院の統廃合に伴う医療機能の集約化・効率化の流れと連動しながら、地域に根ざした持続可能なスマートシティをどのように構築していけばいいのか。以下の目次に沿って詳しく見ていきましょう。


目次

  1. 病院を取り巻く環境と政策動向
  2. 病院の統合再編を進めていくうえでの課題
  3. 病院を核としたスマートシティ構築の可能性

 

1.病院を取り巻く環境と政策動向

病院を取り巻く経営環境は近年、厳しさを増しています。主な要因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 地域人口の減少による医療需要の長期的な縮小
  • 財務状況の悪化による資金調達機会の減少
  • 老朽化した施設の建替えや耐震化対応に伴う建築コストの高騰
  • 医師偏在などによる医師確保の難しさ

こうした状況を受け、厚生労働省通知(医政発0117第4号通知)では、地域医療機関の統合再編が推奨されています。具体的には公的病院の在り方を見直す議論が進められ、機能再編・規模適正化を検討すべき病院のリストが作成・公表されました。現在はコロナ禍の影響でいったん中断しているものの、今後この流れが再加速していくことは避けられないでしょう。


 

2.病院の統合再編を進めていくうえでの課題

病院の統合再編を通じて、医療資源の効率化や医師不足への対応、経営改善が期待されます。一方で、ライフサイクルコストの抑制や収益向上などの課題も浮上しています。特に、建築費単価の上昇トレンドが続くなかでは、病院の施設整備そのものに大きなコストがかかるため、慎重に検討する必要があります。

さらに、統合や移転元となる地域住民への配慮も不可欠です。居住者にとっては生活圏から病院が遠のくという不安があり、地域全体としての健康増進機能がどう変わるかは大きな関心事です。地域包括ケアの視点に立ったヘルスケア機能の再編を行うことで、住民の理解を得ながら地域の魅力度向上も図ることが求められます。


 

3.病院を核としたスマートシティ構築の可能性

病院統合の課題である**「ライフサイクルコスト抑制や収益向上策の検討」「地域住民の意向に沿う形でのヘルスケア機能の再編」**を両立するためには、単に病院を新設・統合するだけでは不十分です。面的なまちづくりやエリア全体のコスト効率性を高める仕組みづくりが不可欠となります。ここでは、病院を中心にスマートシティを構築していく具体的な可能性を5つの機能に分けて紹介します。

(1)生活・居住機能の追加とスマート化

  • 病院周辺に居住エリアを設けることで、近隣からの集患が可能
  • 住民にとっては、近くに医療機能があることで安心感が高まる
  • スマートデバイスやモバイルアプリを活用し、ヘルスケアデータの一元管理やリスクアラートなど、健康維持管理をサポート

(2)宿泊、健康増進機能の追加とスマート化

  • 遠方からの患者や家族向けの宿泊施設をエリア内に整備
  • 病院が監修した健康増進プログラムやフィットネス施設と連携し、商業施設としての集客と地域の健康レベル向上を両立

(3)交通結節点機能のスマート化

  • 病院が公共交通機関のハブとなることで、AIオンデマンド運行バスなどとの連携が期待
  • 病院予約と連動させた乗車予約通知やリマインド機能で通院忘れを防止

(4)レジリエンス機能

  • 病院は災害時にも機能が途切れないようにエネルギーマネジメントが重要
  • エリア全体での再生可能エネルギーの導入や**VPP(バーチャルパワープラント)**の構築を視野に入れ、高度なレジリエンスを確保

(5)地域包括ケアシステム構築とあわせた移転元病院の跡地活用

  • 移転元地域では、回復期・慢性期の病床介護施設の整備で役割分担を担う
  • 病院跡地に図書館やフィットネス、商業施設など複合的に活用することで、地域全体の魅力向上と住民の満足度アップにつなげる

病院を核としたエリアマネジメントの重要性

上記のような機能を追加・高度化するにあたり、病院や行政だけでなく、複数の事業者が連携できる仕組み(エリアマネジメント)が不可欠です。地域の特性や住民ニーズを正確に把握し、統合的にプランニングすることで初めて、スマートシティの経済性・利便性・レジリエンスが向上していきます。


まとめ──持続可能なまちづくりへの道

病院の統廃合や地域包括ケアの取り組みは、課題解決の糸口であると同時に、スマートシティ構築の起爆剤にもなり得ます。高度化する都市機能を支えるハブとして、病院と周辺施設・サービスを一体的に再設計することで、ライフサイクルコストの抑制地域全体の価値向上を実現できる可能性が広がるのです。

私たちKTXアーキラボ(本社:東京都港区/兵庫県姫路市)では、病院・医療施設や公共施設の設計実績を活かし、地域包括ケアシステムやスマートシティの視点を取り入れた空間設計・プランニングを行っています。自治体や医療法人の皆さまが、今後の病院統合や地域医療再編を進めるうえで課題解決の糸口を見いだせるよう、多角的な視点でご提案いたします。ご興味がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。


参考文献

  • 独立行政法人福祉医療機構「平成30年度 福祉・医療施設の建設費について」
  • 厚生労働省「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」
  • 厚生労働省 令和2年1月17日 医政発0117第4号通知

▶️弊社の設計事例についてはコチラの作品集をご覧ください

2024.12.25


松本 哲哉

【この記事を書いた人 松本 哲哉】

KTXアーキラボ 代表・一級建築士・大阪芸術大学非常勤講師

2024年度イタリアDAC認定デザイナーランキング世界8位(日本国内1位)

▶ウィキペディア 松本哲哉(建築家)


お問い合わせ

建築設計事務所 KTXアーキラボ 一級建築士事務所

本社:兵庫県姫路市

東京オフィス:港区南麻布

 

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